リクエスト小噺

□優しくって少しばか
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日曜日の昼下がり。天気は良好。
俺の気分は下降気味。
隣の恋人の様子は、嵐の予感。





優しくって少しばか





なんでこうなったかな。
実は、思い当たる節がない。

でも、獄寺は俺を叱った。
“おまえのわがままにつきあっていられない”と言った。
どこが、わがままだったんだろう。
実は、思い当たる節がない。

今日は、俺もムシャクシャしてた。
野球部の練習試合が近いのに、手違いで今日はサッカー部にグラウンドを取られた。午前中に軽く体を動かして、練習試合の作戦を立てて解散して。だから午後は獄寺と待ち合わせしてバッティング・センターに行ったら、機械のメンテナンスとかでセンターが閉まってた。
これじゃ野球できねーじゃん、つまんねぇ。そう言ったら、獄寺にわがままを言うなと叱られた。

俺をわがままだと言ったのは、家族以外では獄寺が初めてだった。
でも俺だって、人生の半分以上を集団生活においているのだから、自分がわがままだと思う行動はとらない。第一、俺の大好きな野球もチーム・プレイがものをいうんだぜ?

でも獄寺は、それより少し次元の高い話をしているらしい。俺はバカだから分からなかった。
“言えばなんでも叶えてもらえると思うな”と言った。

欲しいものや、したいこと。それを叶えたいと思うのは、言葉にするのは、いけないことなんだろうか。
まわりくどいサインより、ちゃんと直球に言葉にした方がいいと思う。今だって、獄寺はもっと分かりやすく俺に言えばいいと思う。

でも獄寺は、それを実行してもくれず、あまつさえ俺に聞こえるか聞こえないかの声で“これだからひとりっこは”とうんざりした口調で漏らした。
その独りごとは明らかに悪意を含んでいて、さすがにムッときた。
それは言うべきことじゃないと思う。容姿を傷つける言葉を言うことと同じくらい、生まれ育った環境のことを何かの要因にするのはいかがなものかと思う。
なんだよ、獄寺だってわがまま言うくせに。
俺だって、そんな獄寺は大嫌いだ。

獄寺より速く歩いたら、獄寺が俺を追い越してきた。
だから俺は獄寺より少し後ろで、一定の距離とスピードを保って歩いた。もっと速く歩いて追い越し返すことも考えたけど、また揉めたりするのが単純に面倒臭かったからやめた。かといって自分から帰るのも癪だった。獄寺が謝ってくるまで機嫌を直したくなかった。
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