リクエスト小噺

□blind
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公園の脇を通る時、ベンチに座っているカップルを見かけた。
近くの高校の制服を着ていた。

自然に絡みあった手、楽しそうな横顔。
ああ、いいなあ。
なんだか、見ているこっちまで幸せな気分になる。
あ。しかも今、キスした。
ふたりとも、ちょっと照れ臭そう。
ああ、いいなあ。
なんだか、羨ましくなる。
俺も、あんなことしてみたい。
思わず、隣を見てしまった。

相手が相手なので、公衆の面前でキスはできないけど。
でも、手をつなぐくらいはいいかな。
そう思って、すぐ傍にある手をとる前に
「だっせぇー!!」
その手の持ち主が、心底いまいましげに毒づいた。





blind





「え?」
俺が手をひっこめると、獄寺も無造作に両手をポケットにつっこんだ。
「よくやるぜ。あんな所で」
「ああ、あの高校生」
獄寺も気づいてたんだ。
「なんで?幸せそうでいいじゃん」
「はあ?おまえマジで言ってんのかよ」
「? うん」
「信じらんねぇ。公害だ」
「ふうん。獄寺って、硬派なのなー」
「まぁな」
俺の言葉に獄寺は表情を緩めたけど、すぐに引き締め直して続けた。
「俺、女のカバン持つような男なんかも大っ嫌い」
「えー、なんで?」
「カッコ悪い」
「彼女でも?」
「当たりめーだろ。違う女ならなおさら持たねぇよ」
ハルやビアンキねえさんが聞いたら呆れるだろうな。
「おまえは持ってやるのかよ」
逆に、獄寺が尋ねてくる。
「うーん……」
そりゃ“持ってもらって当たり前”て顔をされるのはイヤだけど。
「うん、持つかも」
獄寺は、何も言わなかったが、理由を問いたださんばかりの顔で俺を見てた。
「だってさ、それで相手が嬉しい気持ちになるんだぜ。それに、俺の株も上がるし」
「やめろよみっともねえ」
獄寺は煙草に火をつけると、続けた。
「女のもんなんか持つなよ」
「え?」
なんだか都合よく聞こえたので、もういちど言ってもらおうとしたら
「てめーに女物なんて、気色わりぃだけなんだよっ」
吐き捨てた獄寺の頬が少し赤かったので、やっぱり都合よく解釈することにした。

ほんと、獄寺ってもったいないと思う。
こんな綺麗な見た目なら、女のカバン持ってあげたらきっとサマになる。
今だって、風が吹かなくなった時に煙草を吸いだしたし、
目の前の獄寺の家に入ると、きっと俺の好きな飲み物を出してくれる。
ハルや笹川がカバンよりずっと重いものを持っていたら、きっと無意識に持ってあげると思う。
それなのに。
そんな気配りや性格の良さを、なぜか獄寺は乱暴な言葉で隠したがる。
ほんと、獄寺ってもったいないと思う。
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