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□ロマンチスト・エゴイスト
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ロマンチスト・エゴイスト








「獄寺、俺きょう1年の女子に呼び出されちった」
朝、教室に入るなり嬉しそうに何を言うかと思えば。おはようの挨拶よりも大事そうな山本の報告事項に、俺は舌打ちする。
「そりゃ良かったな。おまえがフッた女の復讐じゃなきゃいーな」
俺が目を合わさず言うと、山本がなんだよソレと笑った。

時々、山本はこんなことをして、俺の気を引こうとする。
最初は、無邪気でバカな行動だと思ったから、俺はとりあわなかった。でも、それが俺の気を引きたいが故の行動だと分かったとき、俺は一層ガードを硬くした。

俺の気持ちなんか、本気になればすぐに引き出せるくせに。その時の俺がどんな気持ちになっているか分かっているくせに。それなのに、俺から気持ちを差し出させようとする。
そんな山本が、本当に憎たらしくなる時がある。

今日は、山本を見ない。何も見たくない。そう決めた。
あいつが他の奴のために準備をするところなんて、見てどうする。
あいつは、気を引くために俺に言ったんだ。
だから俺は、高みの見物をしていればいい。
そう思うのに、それが打ち消されるような不安に圧される。
俺には何もできない。したくない。


体育の授業の後、ゲタ箱に1通の手紙が入っていた。
“果たし状”と筆で書かれ、時間と場所の指定、差出人は名字のみ。
はあ。ため息しか出てこない。
しょせん俺には果たし状が関の山だ。
まあ、でも今日はこんな気分だし?スッキリさせてもらうぜ。


意気揚々と指定された体育館裏に行くと、そこには制服姿の女子がいた。
山本に言ったことじゃないが、それこそ復讐だろうか。彼女は、身構えた俺に頭を下げて礼を言った。そして“果たし状”のタネを明かした後、手短かつ端的に、俺への恋心を告げた。
確かに、ラブ・レターと分かっていたならすっぽかしていた。敵ながらあっぱれ、という感じだ。山本のアホもこういう予想外のことでもすりゃ、俺を簡単に引っかけられるかもしれねーのに。そこまで思って、俺は彼女の気持ちを受け取らなかった。悔しいけど、やっぱり俺はあいつを軸にして考えてしまっているのだ。
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