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□seed of discord
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seed of discord










「っしゃあ!」
「くっそー」
手を上げて喜ぶ獄寺と、肩を落としてがっかりする俺。
獄寺が、器に手を伸ばした。


獄寺が遊びに来たので、親父がスモモを出してくれた。
初めは分けあって食べていたけど、スモモが残り5つになった時、俺たちの戦いは始まった。
ゲームをして、勝った方がスモモを1つ食べられる、というルール。
うまく勝てば、5つとも食べることができる。
親父が聞いたら“食べ物でケンカするな”と怒りそうな話だ。
でもその親父が持ってきたスモモはいい感じに甘酸っぱくて、俺たちの勝負の引き金には充分なり得た。別のものだったらこんなことしないで獄寺に3つあげようかなと思う俺さえも虜にする味だったのだ。

ゲーム内容は、オセロ。現在、4戦めが終わったところ。
対戦成績は、互いに2勝ずつ。
こう表現すると互角な雰囲気だが、とんでもない。
獄寺は、オセロがめちゃめちゃ強かった。
最初に俺に2敗したのも、様子見というかわざと負けてやったとしか思えない。
だって3戦めは、俺が四隅をおさえたのにそれ以外のマス目を全部埋めるという信じられないことをした。

「あと1戦だな。まだやるか?」
やっと食べ終わった獄寺が得意気に笑う。オセロなんて面倒臭いと言っていたけど、そういうことかよ。
「次は分かんねーだろっ」
俺は語気を荒げながら、チップを中央に置いた。
なんだかいろいろ悔しくて、ムキになってしまうけど。これこそ敗因に繋がりそうだ。
落ち着いて、一手一手を考えて。
そう自分に言い聞かせて、勝負に臨む。
先の4戦よりじっくり考えて、時間をかけて対戦してみると、僅かだけど勝機がみえた。そこで一気にたたみかけると、あっという間に俺が優勢になり、圧勝することができた。

「やったぜー!!」
俺がガッツポーズをすると、俺の目の前で獄寺は最後のスモモを自分の口に放り込んだ。
「って、おい!!」
俺は思わず、握っていた拳を獄寺の頭にぶつけてしまった。
はずみで倒れた獄寺に、がばっとのしかかる。
「ひでぇ獄寺!おれ勝ったのに!!」
「ふぐ食わへーからいらへーのかと思ったんらよ!!」スモモのせいでちゃんと話せてないのもむかつく。その閉まらない口の中に、俺は舌を差し入れた。
「んぅっ…」獄寺が苦しそうな声を絞り出す。
あー…獄寺の口ん中あめぇ……。
「ふっ……」
「ぅ…っく…」
最後のスモモは結局、互いの口の中を行ったり来たりしながら、俺たちに食べられてしまった。
唇を離して、まだ息を荒げている獄寺の口の中に指を突っ込む。
残された種を取り除いてやると、獄寺が声を上げた。
「てっ…めぇ、めっちゃくちゃだな…そこまでするか」
「おまえが言うかよ、それ」思わず吹き出してしまう。
まだ倒れ込んでいる獄寺の髪を掻き上げてやる。
「横取りしてまで食うなんて。獄寺、スモモそんなに好きだったのかよ」
「てめーこそ、こんな必死に取り返しにきやがって…」
「だって、コレうまかったし」
「そーかよ」

「好きなもの取られたら…黙ってられなくね?」
俺は意味深に言った後、スモモなんかよりも執着しているものにまた覆い被さった。
スモモはとっくに飲み込んだのに、獄寺の喉がごくりと鳴った。
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