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□New!♪「シリーズ物語」
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【ようこそ!ボンゴレへ!!8〜ハロウィン〜】

キーンコーンカーンコーン


高いのに、どっしりと響く鐘の音は終業を知らせる時間。
昨今では、生徒の自主性を促す為に鳴らさない学校も増えたのだが、ドラマの撮影的には情緒は欲しい。

時折、車から発せられるスピーカーの音に中断しつつも教室内での撮影は行われた。
最初こそぎこちなさも有った休憩や撮影自体も、回を重ねれば同年代なこともありすっかり仲良くなっていた。
…極一部を除いて。

「朝早いのに皆すごいなぁ…。」慣れない撮影と、時間帯に綱吉はため息を吐き出し、差し出されたホットマスクを目に宛てる。
「まぁ、慣れだぜこういうの。深夜撮影とかもあるだろうし、それに併せて慣れてくるって。」
「大丈夫です!10代目は、どんな姿でも可愛らしいです。」

キラキラと、アッシュの入ったグリーンの瞳を輝かせた獄寺は、まるで夢見る乙女のようにして讚美する。
「……あ、いや…可愛い…って…」
言われた本人にしてみれば、讚美とは言い難い形容であるのだが、真剣に言われたのを違うとも言いづらい様子で、渇いた笑いしか出てこない。
(にしても…俺セリフ噛みすぎだ…気をつけないと…。)
歌と違い、上手くカメラの前でセリフが話せず、どうもカチコチになってしまう自分に少し参っていた。
周りの生徒役の役者にも迷惑を掛ける事になるわけで、少し周りの目が痛いと、余計に眠れなくなってしまい朝起きるのが辛い。

今も撮影の合間の休憩時間、仲の良い人間同士が集まり騒ぐのだが、一部からは嫌な視線がつきささってくるのだ。
「……山本…ちょっと良い…?」
アイマスクを外して横で笑う親友に声を掛ければ、親友はニコリと笑い綱吉の手を取り、悠々と歩き出す。
しかし、獄寺は「何故に山本〜?!」と、机に突っ伏して泣き出す始末だった。


山本が、歩いて来たのはまだ生徒の気配の無い屋上である。


「わ〜見晴らし良い〜。」
朝の爽やかな風が頬を撫でて、先程までの鬱蒼とした気分を弾き飛ばした。
「良いよな〜屋上〜…で、どうしたツナ?」
ニコリと笑う彼は、何時もと変わり無く、優しく親友を促す。
「……あ…うん。あの…ね…。」
言いづらそうに下を見た綱吉の頭をポンポンと叩くと、勇気が出たように顔を上げれば、又爽やかな笑顔と見つめ合う。
「昨日…XANにぃから電話有ってね。…絶対に良いドラマにしろって…言われて…。」
XANにぃこと、XANXUSはイタリアにいる綱吉の従兄弟に当たる親戚で、物凄い怖面とは裏腹に可愛いモノには大変弱い。
勿論、この可愛らしい従兄弟を大変溺愛しているのだが、たまに解りづらい時がある。
「だな〜。ぜってーに続き作らせて、自分も出たいんだなぁ〜スクアーロからも
電話あったぜ。で、プレッシャーで噛みすぎたか?」
「う…んと…まぁ、ちょっと…だけ。」
ポリポリと頬を指で掻けば、山本は気にすんなよ。と、背を叩き、反動でよろめくように数歩前に歩く。
「気にすんなって、リラックスしときゃ、後はバーンってなるからよ!!」
「う、うん。それは、俺の事なんで…まぁ、頑張るんだけどさ。山本は現場の雰囲気どう?」

ドラマや映画の撮影など初めての綱吉ではあったが、妙な感覚を覚えてしまう。
「…どう……?」
頭の後ろで組んだ手を伸びるように天に向けて背伸びをする山本は、一枚の写真のように爽やかだ。
「現場の雰囲気…なんだけど同じ事務所同士が集まってるから、こう…上手く流れが出来て無いって気がして…。」
「まぁ……うーん。だな。…学生とか同年代が集まると仲の良いもの同士がくっ
ついてんのはよくあるぜ?学校と一緒だけど?」
何が気になるのか解らず、山本は黒い瞳をパチパチと繰り返す。
「そう…いうものか…な。」
撮影に慣れていない綱吉は、上手く伝える事が出来ない。ただ妙に感じるのだ。

学生の…ずっと前に感じた奇妙な派閥的な違和感を…。



撮影している教室に戻れば、まだ休憩中とはいえ酷く騒がしいのに、二人は顔を見合わせる。

「…なに…?」
「…喧嘩…獄寺のヤツだ!」
急ぎ扉を開けば、案の定獄寺が中心に教室の中はバタンバタンと音を発てて机や椅子を倒しながら喧嘩が行われていた。
「何してんの!?」
「おい!獄寺止めろ!!!」

振り上げた腕を山本が掴み制止を促すが、ギリリッと音が聞こえる程に睨み付けて山本にまで拳を向けようとする。
「離せよ、山本。」
「離せるわけねーだろ。何考えてやがる!」

振り払い勢いよく、そのまま山本にまで拳を向けた瞬間、綱吉の声はピンと張った空気のように獄寺を止めた。


「…10代目…。」

「駄目だよ。」

獄寺を通り過ぎ、倒れたままの生徒役の少年に向かい手を伸ばしたが、パンと音を発てて払われる。
「テメェ!!!」
「獄寺!」
「獄寺君!何考えてんの!ここ仕事場だよ!まして、女の子達怯えてるじゃないか!」
払われた手の甲は赤く染まっている。

「ですが10代目!コイツ等がっ!」
「はっ!本当の事言ったまでだろ!事務所の次期社長だかしんねーけど、権力嵩にしても演技何一つ出来ねーって!!」


はっ…!!っと息を飲んだ綱吉は一瞬我を忘れて叫びそうになる。

『俺だって好きでやってるわけじゃない!!!』


しかし、その言葉はやりたくて、成りたくてやっている彼らに暴言でしか無い。
彼らの中には、学校に行きながらレッスンをしている人物は沢山いるのだ。

まして、昔とはちょっと違うのだ。

「…うん…ごめんね。上手く演技出来なくて…でも、それは俺にきちんと言って。そしたら、俺も…聞けるから…ね。」紅くなった手を擦りながら、へにゃりと、笑うと小さな舌打ちをすると下を向き、周りに一切聞こえない位の声で何事かを呟いてから立ち上がる。
「あ、怪我の手当てしないと…」
「…さ、触んな!」

突き落とすように綱吉の肩を押せば、華奢な身体は鑪を踏み後ろへとよろめく。

「10代目!」
「ツナ!」

きゃぁ…!と、高い悲鳴が耳に入って来た綱吉は、ひどくゆっくりに時間が過ぎる気配がした。
しかし、元来の運動神経の無さは、身体を支えてくれはしないために襲うであろう衝撃に身を固くして、ギュッと目を閉じる。

凄まじい音が教室に響いて、元々倒れていた机や椅子が更に音を発てて向きを変える。

「いっ!」


「たくない………?」

ある程度の衝撃に身を構えていたが、確かに倒れた衝撃は有れどそこまで痛くは無い。

恐る恐る後ろを見れば横這いに、山本と獄寺の姿が見えて彼らが机からの衝撃を遠ざけたらしいのだが、自分の身は座椅子に座っているかのように背もたれまであるモノに守られている。

がっしりと腕を掴む手に覚えがある。


「「「きゃぁぁぁぁ〜!!!」」」

女の子特有の高い悲鳴に後ろを見れば、よく見知った綺麗な顔と向き合うことになった。
「ひ!雲雀さ…!」
「大丈夫?」
はい。と答えてみるが、自分よりも後ろで倒れている二人が重傷に見える。

「あの…すいません。」
「良いよ。平気だから。」


「……雲雀君…謝るなら僕にも謝って下さい。」

いやにヨレヨレとした声が聞こえてくる。
普段はピンとした柳麗な声を考えれば、雲雀に突き飛ばされたのかと入口を見るが姿は無い。
「ちょっと…さっさと退きなよ君。」
「それは此方のセリフですよ。綱吉君だけならいざ知らず、何故に君にまで乗られないとならないんですか…。」
乗る。という単語に慌てて下を見れば、逞しくも痩身の背に思いっきり座りこんでいた。
「ぎゃぁぁ〜!!!ごめんね骸!!!」
バネ式の玩具のように勢いよく立ち上がった綱吉とは逆に、雲雀はわざとゆっくり立ち上がる。
勿論、その際には矢鱈と体重を掛けるのを忘れない為に、下に引かれた骸は潰れるような声を出した。

「……あ、貴方ね…。」
ふらふらと腰を押さえて立ち上がる骸を一瞥すると、すぐに正面を向き綱吉を突き飛ばした少年の前にまで歩く。
「君…何したか分かっているのかい?」

ピリピリと凍りつくように刺す声に、今まで騒いでいた女性徒役の少女達も口をつぐみ身を縮めた。

「綱吉に怪我一つさせることは赦さない。」
「わ〜っわ〜っ!!!違います!雲雀さんっ!!!ちょっと演技指導して貰ってたらエキサイトして!!!だから!」
ぎゅう…っと、後ろから綱吉が抱きつけば雲雀の動きは一旦制止をするのだが、納得いかないらしく自分よりも下にある小さな頭を見下ろす。
「ドラマの撮影で喧嘩のシーンあるじゃないですか!!ね!?」
「…ぅ…もう、今回だけだからね。」

下から懇願するように潤んだ瞳で見つめられては、彼を可愛いと想う雲雀には勝つ術は無く仕方無いとばかりに息を吐き出した。



その場は集まって来た別のスタッフによりその場は収まったのだが、その後少々ややこしい事になってしまった。
普通、撮影等の事をドラマの放映が開始されるまであまりブログ等に詳しく書くことを好ましく思わないのだが、一連の出来事を見ていた女性徒役の役者が友人に話した事をで、その人物が日記に上げてしまった為に一気に広まってしまった。

よりにもよってソーシャルネットワークによる日記であり、役者の友人が『ボンゴレ』のファンであった為、彼女の友人のみならず同じコミュニティに入っている人物も閲覧することになり、慌てて削除したものの既に後の祭りであった。
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