くら蔵

□嘘でも言わないで。
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『嫌いだよ。』


この一言がこんなに痛烈に胸にくるなんて思わなかった。



今までだってかなり言われていた言葉なのに、あの人に言われるだけで涙が零れた。

朝に会った雲雀さんは、何時も通りに校門で服装、遅刻チェックをしていた。
だから、何時も通りに『おはようございます。』と、挨拶しただけだったのに。

返ってきたのは、『……あぁ…。』とその言葉だった。
頭が真っ白になって、頭だけじゃなくて全身が生きることを止めた見たいになった。

それでも、雲雀さんの声だけは馬鹿みたいに聴こえるみたいな俺の耳は、小さく自分の名前を呼ぶ声を拾った。
涙で歪んだ視界には雲雀さんを映す事はできなかった。

困ったような声だったから、思わず走り出していて、気が付けば屋上まで走りきってしまっていた。
途中、後ろから山本や獄寺君の声が聞こえたけれど、止まれなかった。



昔から、何度も言われた。
沢山の人に言われていた。

でも、泣いた事なんて無かったのに…。
ポロポロと落ちて止まらなかった。


授業だって始まっているのに、一歩だって動けない。
それどころか、指一本動かす力も無い。

天気は良くて、桜だって綺麗なのに自分だけ
「…可愛いな……。」
こんなに可愛いから、何をしても愛らしい。


「良いね。雲雀さんに…好かれてて…。」
側にいても嫌われない存在に小さな嫉妬が出来てしまう。
小さな声に反応した黄色い鳥は、又左右に揺れる。
「ツナヨシ!ツナヨシ!」
小さな物体は、知らない筈の名前を奏でた。
「あぁ…うん。俺綱吉だよ?」
「ツナヨシ大好キ!ツナヨシ可愛イ!」
高い声で、身体を左右に揺らしながら、羽をパタパタとさせる。
「………あ…ありがとう。」
物凄い勢いで話す小鳥の身体を優しく撫でる。
フワフワとした手触りが気持ち良い。
「ヒバリ!ヒバリ!ツナヨシ可愛い!ヒバリ、ツナヨシ大好き!」
何故か主の名前を呼び出した小鳥に、苦笑いがでた。
さっきと真逆の言葉を貰ってしまった。

「…嫌いって…言われちゃったけどね…。」
力無く笑えば、小鳥はパタパタと羽を羽ばたかせ飛んでいく。

又、静かな空間に取り残される筈だった屋上に高い声と低い声が聞こえたのは直ぐだった。

「ヒバリ!ヒバリ!」
「いっ…ちょっと痛いよ君。」

高い声は、先程まで一緒にいた小さな小鳥。
低い声は…。
「…まったく…。…何授業さぼってるの?」
頭に黄色い小さな鳥を乗せて、
身体を頬に擦り付け可愛らしく鳴く。
その身体をワシリと掴んだ雲雀さんは眼前に小鳥を持ち上げて、ギロリと睨んだ。

「…君…本当にいい度胸してるね…。咬み殺すよ…」
「わー、わー、あの!その子頭良いんですね。名前言えるし…あ、何で俺の名前知ってるんでしょうか…。」
本当に小さな小鳥さえ咬み殺しかねないため、誤魔化す様に話をしてみたが、本当に何で俺の名前知ってるのかな?
確かバーズと戦った時に会ったけど…名前なんてほとんど出なかったし、相手は『ボンゴレ』仲間は『ツナ』か『10代目』だったはず。
だとしたら、随分と頭の良い鳥だ。羨ましい。

「……それは…」
妙に歯切れの悪い雲雀さんの言葉を遮り、又小鳥が話出す。
「ヒバリ教エテクレタ!ヒバリツナヨシ大好キ!ヒバリイッツモツナヨシ見テル!ストーカッギュッ」
「うわっ」
掴んだ小鳥を雲雀さんは、思いっきり握っている。

真っ赤になった目元が懸命に睨んできた。
「別に、そういうんじゃ無いよ!君絡まれ易いし、僕の街でそういうの許さないだけで…!!」

そういえば…最近、一人で帰っても、お使いに出ても絡まれなくなった。
「……えっと…雲雀さんが守ってくれてたんですか?」
ポッと、頬に赤みが差した俺と…目の前で、耳まで赤くした雲雀さん。


「…………だから嫌いじゃ無いって言ってるでしょ…。」
嫌いが嘘ならその反対は…。
今度こそ俺の耳も赤くなった。


……じゃぁ…嫌い何て嘘でも言わないで下さい。

真っ赤になったまま口にも言葉にも出せない俺は心でお願いしてしまった。
 

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