シリーズ物語

□【ようこそ!ボンゴレへ!!8〜ハロウィン〜】
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ガラリ!

勢いよく扉をスライドさせれば、空いているのは綱吉の席のみで、獄寺も山本も、京子も黒川も皆席についたままポカンとして開いた入口を見ていた。
「〜〜〜〜〜」
恥ずかしくて顔を真っ赤にして、下を見る綱吉を全員がどうして良いのか分からずに見ている。
勿論、スタッフもだ。
撮影までは時間があるものの誰も声を出せずにいる。


「と…………とり…とり…」
「…綱吉…鳥になってるよ。」

「と…トリックオアトリートぉぉ!!!!」

全くもって、カタカナ読みの英語が綱吉の口から放たれて、返って来るのは女子の「可愛い〜」と、後ろの雲雀の恰好良さを讃辞する言葉である。
ザワザワと収集つかない教室をカツカツと鳴る厚底の靴で通ると、男子役の役者の生徒から感嘆の息が漏れた。

「じ、十代目!」
自分の横も通り過ぎた綱吉を追い掛けるように立ち上がったが、彼の止まった場所に驚く。
「…も…持田君!トリックオアトリート!!!」
「……は?」

「だから、トリックオアトリート!」
真っ赤な顔をした綱吉の姿は、言葉に相応しく魔女の恰好である。
寧ろ魔女っ娘。
大きな唾の付いた帽子は先端が折れ、かぼちゃパンツを履いた上に柔らかいパニエと黒の短目のワンピース。
しっかり、裾にはレースもあしらわれている。
細い脚にはしましま黒とオレンジのストライプのニーハイソックス。
黒のマントを身につけた、手の先にある杖にはジャック・オー・ランタン。
「あ………ハロウィン…」
つい素で答えた彼は、慌てて口を手で押さえてからぶっきらぼうに口を尖らす。
「菓子なんて持ってるわけねーだろ。」

「お菓子無いならイタズラします!!!ひ、雲雀さん!」
黒いスーツに黒いマントを羽織る雲雀は吸血鬼。
相棒の毛玉のような黄色い鳥も邪魔にならない程度に羽を黒い布で覆っている。
「ひっ!!?」
「雲雀?!!」
雲雀にイタズラお願いします!では、洒落にならないと少年は立ち上がるが、眼前に出されたモノに目をパチパチとさせる。
「…へ…?」
「それ君の。僕と綱吉ダケじゃ周りきらないから。」
着替えろ。と言われて取り出せば…
「み…耳?」
黒い耳のカチューシャに取り付けクリップのついた黒い尻尾。
更にはピンクの肉球のついた黒い手袋…。
手袋といっても5本指では無く、グローブに近い3本指だ。

「ぶっ!!モッチン猫かよ!!」

近くにいた同じ事務所の少年が、堪らずに吹き出す。
「は、はい。猫です!お願いします。」
雲雀の横から必死にお願いするように手を組み、大きな瞳を潤ませられた少年達は言葉も出ない。

それを横から手を出した黒川に耳付きカチューシャを取られると、スポリと頭に付けられた。
「持田髪の毛真っ黒だから、耳埋まるわね。」
天に向かい束で尖らせた髪は上手い具合に耳と髪を馴染ませた。
「じゃ、コッチも装着いたしましたぜ姉御!!」
敬礼をするように、まっすぐに伸ばした指を額の上にかざすのは、年頃の少年らしく悪乗りした持田と同じ事務所の少年。

「うわぁ…萌えねぇ〜!!!」
男子役の役者達から笑いが溢れ、つられて女子も笑う。
「う、うるせぇよ!」

手にした肉球付き手袋を恥ずかしげに握るが、諦めたのかズボリと勢いよく填めると仲間や黒川に向かい両手を上げる。
「おらぁ!オメェらもじゃ!」

ぎゃぁ〜と笑いに包まれた教室は、お菓子など持っていないために物凄い騒ぎになる。
ビアンキ達から聞いていた京子達まで着替えた為に教室はモンスターにイタズラ…とはいえ可愛く擽られたり、ハグされたりする位であるが、大騒ぎだ。
見れば、人見知りをする凪も京子に手を繋がれて頬を染めて騒ぎの中にいる。

「子供は元気だね〜」
呆れたように笑うスタッフだったが、以前のような殺伐感は無い彼らに時間だからと口を挟むのは止めたようだ。


「あ、すいません監督…」
「いやいや、一応社長から聞いてたからね。」
ペコペコと頭を下げる綱吉に監督は、ニヤリとわらう。
「ほら、ドラマのDVD特典とかに付ければ良いしねぇ〜。」
「へ…。」




いやな笑いは、事務所の社長とよく似ているし、よく見れば何時の間にやらカメラは回っていて、子供のようにはしゃぐ生徒を映している。
「…ふふふ…。」
ドラマが放送される前から、DVD販売の事を考えているのか…と、怯えながらも事務所など関係なく皆で騒ぐ生徒役の一群を見つめる。
この格好は少々恥かしいが、まぁ良かったと、スカートの裾を伸びるわけでも無いのに押さえる。
雲雀は流石にあの輪には入って行かずに綱吉の後ろに番犬宜しく立っているが、山本は自ら進んで…獄寺は巻き込まれるように女生徒役の少女達に囲まれてしまっている。

モンスターの扮装をした一部の生徒も、関係なく揉みくちゃになっている。

その中の一人…件の少年が、気まずそうに、少々顔を赤くして綱吉達の前に歩いてくる。
自然と生徒役の役者も無言になってしまった。
腕を組んだ雲雀は、特に動く様子は無い。少しだけ、後ろに下がりそうな綱吉を支えるようにただ傍に立っているだけだ。

「…あの…あのよ…」
上手く言葉に出てこない言葉を喉から引きづりだすようにして渇く口を押さえる。

気まずいのもどうして良いのか解らないのもお互い様だ。
逃げ出したくなるのを抑えてくれるのは、恋人の雲雀の存在と優しく握る手である。


「トリックオアトリート!!!」

同じくカタカナ読みである。
一瞬ぽかんとしてしまった綱吉に黒い猫の手が伸びた。
「お菓子が無いならイタズラだ!」
赤い顔は、照れの証…プニプニとしたクッション付きの肉球が柔らかい頬に届く前に綱吉は、「あ!」と声を上げる。

「お菓子持ってます!!」
横に提げたポシェットをガサガサと漁ると、行き場のなくなった肉球の上にぽてんとラッピングされたマフィンが乗る。
「昨日作りました。パンプキンマフィンです。」
にこりと笑う綱吉に毒気を抜かれた生徒役のメンバーは、一瞬の間の後大笑いして綱吉に向かい全員が声をそろえた。

「Trick or treat!!!!」

そんな彼女達に綱吉は、季節外れのサンタクロースばりの袋を持ち出してきた。
「お菓子で!!」

にっこり笑う綱吉はに一人一つづつラッピングされたカボチャのマフィンが手渡される。
「凄いねツナ君。もしかして一人で作ったの?」
きらきらと甘いものが大好きな女の子達は笑顔で綱吉に聞けば、恥かしそうに頭を掻いて答える。

「あはは〜昨日撮影なかったし…ラッピングは雲雀さんに手伝って貰って。」

「は…ラッピング…。」

透明なビニールに可愛らしいコウモリにモンスター達が書かれた袋に、個別に手作りのマフィンを入れて丁寧にリボンを結んでいるマフィンを再度全員が見る。
「…何。」
赤、青、緑の細めのリボン。それも全てキレイなリボン結びである。
「仕方ないじゃない…綱吉不器用すぎてリボン結ぶの下手なんだもの。」
への字のままの雲雀は、昨日のことを思い出し深い溜息を吐出した。
縦になったり、妙にバランスの悪いリボンに見かねて手を出すことにしたのは、いい加減自分に構って欲しかったからでもある。
「折角美味しく出来てるのに…勿体無いじゃないか。」

思わず、女子役の少女たちは口元に手を置き噴出さないように必死になった。


その後、そのマフィンは少女達の手によりブログに上がり、ファンやメディアからも快い声が載る事になる。


スタッフにも全て渡し終えた綱吉を覗き込んだ雲雀は、小さな声で囁く。
「Trick or treat.」
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