シリーズ物語

□【ようこそ!ボンゴレへ!!8〜ハロウィン〜】
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「すいません!10代目!リボーンさん!!!」
事務所の最上階、社長室で額を床に付けて土下座をしているのは、事の発端になった獄寺である。

「全く…君は直ぐにつっかかる癖治らないんですかね。」
はぁ…と、深い息を吐き出した骸は、優雅に脚を組み替えて紅茶を一口すすり…眉を寄せた。
「ぐっ…っ」

「…綱吉君の周りにいる人間全員排除したがるからこういう事になるんです。少しは笑顔で流してみたらどうですか。」
渋い紅茶につい険を尖らせて骸は、ティーカップを薄い陶器のソーサーの上に置いた。

「オメェが、ツナと雲雀のクッションになった事まで書かれてっからな〜。」
机の上に腰を降ろしたリボーンは、ケケケッと笑いエスプレッソを一気に飲み干した。
「そうなんですよ!!!雲雀君ばっかり恰好良く伝わっているんですよ!!!きちんとそこも書きなさい!!」
「書きなさいじゃねーって。」
呆れた声でツッコミを入れる山本は、先程から一言も言葉を発しない親友をじっとみている。
「だってそうじゃないですか!邪魔とばかりに君やそこの短絡思考君を押し退けた
ばかりか、今正に助けんばかりの僕を殴り敷いたんですよ!!!酷くないですか!!ね、綱吉君!!」
屈辱とばかりに綱吉にふるのだが、綱吉の反応は無く下を見ているだけだった。

「とりあえず、今日が撮影無くて何よりだが…どうすんだツナ…。」

「リボーンさん!責任は俺にあります!!!」

本来なら一部の騒ぎ程度で終わるものだったが、色々なニュースに乗り此方の事務所が沈黙してるのを良いことにメディアは好き勝手にコメントをして、相手方の事務所までそれに乗るようにコメントを出して来た。
「このままだと、ドラマは流れんな。」
元々好き勝手にしているような役者が多い事務所。まして、中でも獄寺と雲雀はその筆頭となり、次期社長という事でグループに属していると言われがちな綱吉が絡んだ話となれば、気に入らないと思う人間には格好の餌になる。

「ドラマは…成功させないと…いけないし、変に今コメントを出すのは余計にメ
ディアを煽るだけだから、まだコメントは出さないで欲しい。」
ポツポツと呟く綱吉にリボーンは無言で聞いていたが、隣にいる秘書に向かい目で合図した。

「隼人…。」

「……姉貴…。」
カツカツと、ワインレッドの細いピンヒールを鳴らし、床に座ったままの獄寺の前まで歩く。

ストロベリーカラーの入った茶色の髪を一度掻き上げて小さく息を吐き出した、女性は獄寺の姉であり、恐ろしい程の美女だった。
数年前まではイタリアを中心に活躍していたモデルだったが、リボーンが日本の事務所を任される事になった時、彼女はモデルを辞めて追いかけてきたのだ。
「貴方は次の撮影まで謹慎してなさい。」
「な、に言ってやがんだ!!10代目が俺のせいで大変な時に俺に隠れてろっていうのかよ!!!」

モデルにふさわしく、しなやかで美しい肢体をラインの見える黒のスーツに纏わせた彼女は、室内…まして秘書には合わない色付きの眼鏡…サングラスに近いものをしている。
それを一気に取り払うと、怒れる獅子のような形相で弟に叫ぶ。
「今貴方に出来ることは何も無いのよ!!リボーンの言うことを聞きなさい!」
「…ぐっ…かぁ〜………」

彼女の顔をまともに見た獄寺は、失神したかのように真っ青になり倒れこんだ。
「頼んだぞビアンキ。」
「えぇ、任せてリボーン。」
うっとりと酔ったような瞳と口振りで、朱に染まる頬に手を宛てた彼女は、軽々と獄寺の身体を抱き上げて部屋を出ていく。
普段は弟思いの姉であるが、リボーンに掛かると途端に容赦が無くなる。
「獄寺はビアンキに任せとけば良いだろ。で、後は?」
「…貴方本当に容赦が無いですね。」
ヒクリと頬を引き吊らせた骸は、目的の為に手段は問わないリボーンに少々不憫になる。
姉にトラウマを持つ彼に四六時中付かせるあたりが、やや陰湿だ。

「リボーン、俺…あのトラブルが、彼の意志では無いような気がするんです。」
「根拠は…?」

「勘…だけど…。何か辛そうだった。」
自分を払った時も、突き倒した時も何故か眉は八の字を描いていた。
「根拠ならあるよ…赤ん坊。」
立ち入り禁止の部屋にノックもせずに入って来た青年は、コピー用紙と思わしき白い紙の束を机に投げ付けた。
「雲雀君。君…重役出勤かと思えば調べモノしてたんですか…?」
「ふん。綱吉に火の粉が掛かるなら、僕が根本から叩き折るまでだよ。それに、君だって知ってたんでしょ。」
見事な逆三角形を画いた雲雀の黒い瞳は、骸のジグザグとした分け目を睨む。
「当然です。」
紅茶のカップに手を付け掛け、先程の渋味を思い出してしまいカップの縁をなぞるだけにした。


雲雀の持ってきた書類に数枚目を通すと、小さな手が顎にかかりやれやれと深いため息を吐き出した。
「相変わらずつまんねーことしてくれるなぁ。」
パンと、音が鳴り机に広がる紙を一枚手にした山本は、黒の瞳をパチパチと瞬きさせる。
「なんだ。アイツ、ツナのファンなのか〜」
手にした書類には、件の少年の写真にプロフィール。
趣味に交友関係まで書かれて中に…好きな芸能人欄には『ボンゴレ(沢田綱吉)』の文字。
横にはファンクラブの会員No.までご丁寧にある。
「…お〜スゲー…100番代。」
今や数十万人もいるファンクラブ会員。100番代と言うことは、出来て直ぐに入った最初からのファンだ。

骸はその事を知っていたが、敢えて彼の弁明はしない。

「じゃ、なんでなんだよ?ツナのファンなら、あんなことする必要無くね?」
好きな子はとことん可愛がりたい山本は意味が解んねぇ。と書類を机に戻した。

「貴方も大概単細胞ですね。事務所の圧力に決まってるじゃないですか。」
「…事務所…って〜と」
先程見たプロフィール欄を思い出そうとするが、その前にリボーンが口を開いた。
「カルカッサ…社長代理の名前はスカル。俺のパシリだ。」
「お前のせいか〜!!!」
サラリと言うリボーンに綱吉は、思わず書類を投げつけたが簡単に顔面に叩き返された。
「私怨ですか。ツマラナイ男ですね。」

「そっちは俺の方で何とかするけどよ。どうすんだ?」
恐らくリボーンが聞いて来たのは事務所でも、広まってしまった話の収集でもなく…事務所に命令された彼の事である。
「…うん…考えてみる。」



「放っておきなよ…。って言っても無理だよね…君は。」
仕方無い。とばかりに後ろから抱きつく雲雀に何時もの困ったような笑顔を向ける。
「すいません。」
「良いけどね…君の良いとこも悪いトコもそういう所だって知ってるからね。」
抱き締めれば、丁度綱吉の頭が顎を乗せやすい位置になるために、もふもふとした髪の毛に顎を埋める。


骸は別撮りの撮影に居なくなり、山本も雑誌の取材の打ち合わせで席を外していた。
「あ、雲雀さん。あの時…庇ってくれてありがとうございました。」
すっかり、礼を言う機会を逃してしまい今更ながらお礼を言えば、優しい気配が後ろから感じる。
恐らく微笑んでくれたに違いない。と、綱吉は前に回った手に自分の手を添えた。
「君を護るのは当たり前の事でしょ?」
「そうなんですか?」
「そうだよ。」



「ん…よし!じゃ、雲雀さんも明後日付き合って下さい!!…よし!今からラルとビ
アンキに連絡して、買い物しましょう!!!せっかくの休みだから有効に使いますから!!!」
「え…明日は僕と一緒に居るんじゃないのかい?」
立ち上がり、拳を作る綱吉に久しぶりの撮影無しを二人きりで満喫しようとしていた雲雀は慌てる。
「はい。明日は学校終わったら雲雀さんと一緒ですよ!」
「……そう。」
「はい。勿論です。」

にっこり。
天使も真っ青な笑顔につい雲雀は、嫌な予感がしてならなかった。


「…ぅ〜雲雀さん。俺コレはちょっと…。」
「煩いよ。君に付き合って上げてるんだから、黙ってなよ。」
むむむ…口をヘの字に画いた雲雀は、やや機嫌が悪そうに見える。

「雲雀さんは良いでしょうけど…」
ブツブツと文句を言いながら、用意されたモノと準備したモノを見てガックリと肩を落とす。


「そろそろ集まって来たみたいだよ?綱吉。」

あれから2日経ち、学校のシーンを撮影するために役者が集まってきていた。
最初に校門のモブシーンを撮っていたので、大体の生徒は既にご出勤であり、例の少年も同じくその場にいた。
ただ、やはり居心地は良くないようで、同じ事務所の人間とだけ短い会話をするだけだった。

「い、行きます!」
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