シリーズ物語

□蜂蜜月光《未完》
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まだ、季節は春に近い陽気で大きめの窓から差し込む光は柔らかさを含んでいた。

 目の前に居る癖のない漆黒の髪はその光を浴びて尚艶やかさを増していた。
 決して交わる事もなく、影響を受けると言うよりは引き立たせるために用意されたかのように感じる。


 最近休み時間や放課後に呼び出される事になってしまった一室にフワフワのハニーブラウンの髪をした少年は、シミジミとして己の目の前にある髪の毛を鋤いていた。

 持ち主と同じで真っ直ぐな髪を羨ましく思い、自分の癖のある髪を摘まんでみる。

お世辞にも艶があるとは言えないや……。と、小さく息を吐いた。
 自分の膝を枕に仮眠を摂ると言われるのも大分慣れた。
理由は解らないけれども,たまには群れてみたくなるのかもしれない。この人にもそういう事があるんだろうなぁ。と、深くは気にしていなかった。

 彼が眠りに就いてから一時間が経つ、そろそろ目を覚ます時間だ。そうなれば、自分はお役御免となる。

      これは、何時もの事。


 ただ、単に一人で眠りたく無い彼の言わない我が儘なのかもしれない。

 室内の壁の高い位置にある時計の長針が間もなく12を指す。

彼の人が孤高に戻る時間だ。

「ん……。」

長い睫毛が僅かに動き、彼の覚醒が近いことを知らせる。

その奥に隠された瞳をとても好きだと思うのに、何故か何時もこの時は胸の奥がちりっと小さな痛みを訴えてくる。

「おはようございます。雲雀さん。」

開かれた瞳に映る少年は、随分色素が薄い。
「おはよう、綱吉。」
ゆっくり雲雀の手が下から伸びて、綱吉のふっくらとした頬に指を併せた。
普段に無い行為に自分の下に見える雲雀の顔を覗き込む。


何時からだったからかな?雲雀さんをあまり怖く思わなくなったの。………相変わらず読めないヒトナンダケドね。

雲雀の指先は頬から綱吉の小さな耳に、耳から髪に移動してフワフワとした髪の感触を楽しんでいた。

意外にスキンシップが好きなのかもしれないと、綱吉は最近思うようになっていたの
で、雲雀の指を咎める事もなく自由にさせていた。
綱吉のふわふわとした髪を撫で先程まで戯れていた耳とは、逆の耳を撫で指と手の甲でふわりと綱吉の白いほほをに触れた。
指の先で撫でる手は、男の人にしては白く細いが、綱吉に比べると大きく随分節張って見えた。
この手が武器を自由に操り、相手を完膚なきまでに叩きのめすのはちょっと信じられないものだ。

 頬に触れていた指が優しく首筋に触れると感じたことの無い、擽ったさに綱吉は身を震わせた。
「…擽ったかった?それとも……感じた?」
僕の手に。

膝枕をしているため、自分より下にある目はより細められ、薄い唇には酷薄な笑みが浮かんでいた。
 綱吉は、その眼が苦手だった。
獲物を捕らえる猛禽類ノヨウナ、自分より弱者を遊びで悼ぶる猛獣の様で……。

 どちらも、あながち間違いではないな。と、綱吉は思った。


 不意に、自分に掛かっていた足元の重みが消え、首に遇った筈の指が左の肩に移動していた。
 立ち上がる為になのか、添わされると言うより、掴むに近い感じである。
 今日は、コレで雲雀さんともお別れだなぁと思っていると、左に掛かる重心が増し、ソファの背もたれに縫い付けられるようにされていた。
自分の何かが雲雀を怒らせたのだと綱吉は、怯えた目で上に見上げる形になった彼の人を見上げた。

 雲雀の怒りのスイッチは時に理不尽ではあるが、何故だか綱吉は彼を嫌いでは無かった
し、寧ろ憧れに近い感情を抱いていた。
 兄弟子であるデイーノの一応弟子で、そのデイーノと同等のもしかしたらそれ以上の強さを備える彼を兄弟子と同じ様に尊敬していた。
 そんな人に嫌われるのはとても嫌だった。それは、存在を否定されるような恐怖に近かった。
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