New!!

□New!♪「物語」
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【〜ひとつ屋根の下〜誕生日 編】

カチャカチャ…。

昼に近いまだ朝の10時いつもならまったりとした時間からキッチンで響くのは、ステンレスや鉄の奏でる小さな音。

どうしても必要な書類が有った為に一緒に住む恋人が可愛く拗ねる中、学校に向かい帰宅したのはまだ昼食には遠い時間帯。
食事の準備に取り掛かるには未だ早い筈と黒い革靴を脱ぐと1メートル程の幅の廊下を歩き台所を覗き込む。
小さな頭に小さな身体が、覗き込まれたことにも気が付かずに必死に本を見ながら金属製のボウルを抱えている。

標準高校生の身長よりも小さな身長に華奢な肩と背。
柔らかい髪色が、彼が動くたびにふわふわと踊るように舞う。

差し込む初夏の爽やかな陽射しを浴びながら、時折眉を顰めてみせたり楽しそうにボウルの中味を最近購入した電動ミキサーで混ぜようとスイッチを入れた。
その瞬間。

「わっ…!!」

彼のまだ高い驚きの声と白い物がバフっと勢いよく飛び散った。

「……プ…。」
思わず吹き出た笑いに、笑われた本人は驚いてキッチンの入り口を見る。
大きな琥珀の瞳は、意外なものを見たような後、羞恥に頬を染めて見せた。

「ひ…ひ、ひば…ひば…りさん?」

羞恥で真っ赤になった次には、恥かしさで大きな瞳に涙が溜まるのが見える。
「ただいま綱吉。」
含んだ笑いを抑えきれないままで帰宅の声を掛けると、悪戯をする前に見つかった子供のようにはわはわと落ち着き無く手をパタパタさせて大きな目をくるくると動かす。
「はぅ…あ…の…学校は?」
金属製のボウルを大事そうに抱えられて、まるで狼に出会った小兎のような目が僕の可虐心をぐさぐさと揺らす。
「…君が不満気にしてたから書類だけ取って帰って来たけれど……」
ちろりと怯えた様子の綱吉を横目で見てから顎に手を置き、態と大きく溜息を一つ吐いた。

「どうやら綱吉は僕に帰って来てもらったら困るみたいだったね…仕方ないから
僕は学校に戻るとしよ…」
うかな。と続けようとすると大きな「ええっ!?」と叫ぶ声と小さな白い手が縋りつくようにして僕の黒い学ランを掴んだ。

「ダメです!!」

大きな目にはうるうると大粒の涙。

ああ…本当に可愛い。

ただ…。くわんくわん…と音を立てたボウルと床かから煙のように上がる白い粉に僕は拙かったと目を遣る。
後片付け大変そう。
「じゃぁ、なんだい?」
自分でも随分と意地の悪い笑みが浮かんでいたと自覚がある。

「………ひば…りさん…の誕生日だから…学校行ってる…うちにケーキ…作ろうと思って…」
綱吉の言葉にほわっと心が暖かくなる。
自分の誕生日なんて、休日としてしか憶えていない筈なのにいやに自分の心が温かくなるのを感じて小さな身体をキュッと抱きしめる。
「あはは…でも、ミキサー上手く使えなくて…」

確かに…電動の反動に耐え切れず思いっきりくるくると回っていたように見える。
なまじ人より細いあの腕は、慣れない反動に逆らえなかったに違いない。
……X BURNERなんてとんでもないもの撃っていた気もするが、ソコは置いておこう…通常モードの彼には到底不可能だからね。
「…」
無言で床に落ちたボウルを取ろうとすると、綱吉の華奢な手が引き止めて僕の背を押した。
「駄目です!!今日は恭弥さんの誕生日ですから!!後でお茶持って行きますから…ねっ。」

僕の出て行った台所からは、綱吉が慌てて駆け回る音がした。



綱吉の入れてくれたオレンジ・ペコーのアイスティーを飲みながら学校から持ってきた書類に目を通していると、台所からは甘い香りが漂ってくる。
自分の誕生日なんてあまり意識しないで生きてきたから、何やら不思議な気分だ。
実家では嫡男である自分の生誕を祝うのが親類等で大きな祭りのようになっていたが、群れるのが嫌いな僕には窮屈極まりない行事で学校を理由に随分と遠ざかっていた機が擦るのだ。
しかし、可愛いあの子に祝われるというのは…

嬉しい。


ふんわりとした香りはあの子のようで頬杖を付きながら見えない筈の台所を笑みを浮かべてみてしまう。


「おや?随分楽しそうですね…雲雀恭弥?」

自分の眉間に音を発てて皺が寄るのが解る。
「六道骸…。」
いつの間に居たのか、自分の正面のソファーには当たり前の用に特徴ある髪形をしたオッド・アイが座っている。
気障ったらしいアイツに良く似合う黒い革のライダースに長いシャツ…そして手には薔薇の花束がある。
「何なの…?」
シャキッと音を発ててトンファーを出せば、相変わらすの飄々とした態度で「怖いですね〜。」と、笑う。
こいつは僕の天敵。
綱吉を狙う輩の中でも一番の危険人物。
そして、僕に屈辱を与えた一番嫌いな人間………そもそもコイツは人類カテゴリーなの?

僕の怒りを余所に六道骸はにっこりと微笑み花束を僕に差し出した。
思わずうっと仰け反る僕にそいつは微笑んだままとんでもない事を口にした。

「Happy Birthday雲雀君。」

僕の目は思わず点になった。

その言葉に六道骸を攻撃しようとしていた僕の動きは止まった。
ソファーから立ち上がりかけた少々間抜けな状態だ。

「ああっ!!骸お前〜〜〜っ!!」

居間に響いたのは綱吉の可愛い声。
しかし、いつもの穏やかな柔らかい声では無く、敵意剥き出しのネコのような叫びだった。
綱吉の手には、焼き上がり、飾りつけされた真っ白なケーキが乗っている。

「ああっ綱吉君…今日も可愛らしいですぅ〜〜っエプロン姿なんてまた扇情的っ!!」
僕は思わず押し付けられた薔薇の花束でソレの横っ面を殴ってしまった。

「ひどっ!!」
「バカ骸〜〜っ!!俺より先に雲雀さんにお祝い言った〜〜っ!!大体何だよ薔薇の花って!!お前雲雀さん狙ってるのか!?」
僕にケーキを手渡した綱吉は、骸の横…ではなく脳天…丁度ジクザグに分けられた所に真っ直ぐ手刀を落としていた。
「だ、大丈夫です!!あの薔薇は昔王宮で敵の侵入に備えて栽培されていた花で、香りを嗅げば意識不明!!棘が刺されば意識不明になる薔薇で愛の証の花ではないですから!!」

「……ふーん…。君、この花僕に贈ってきたってことは僕の命狙ったわけだ…。でもさ…同じ家に居る綱吉も嗅いだら意識不明だよね…?」
「っていうか…骸お前さっき雲雀さんに殴られて顔に傷…出来てるけど?」

六道骸の白い肌には先ほど僕に横っ面を殴られたときの擦り傷が出来ている。
やや斜頚をつけた傷は赤い線が3本ほど出来上がっている。

僕と綱吉の言葉に途端に骸は顔色が変わり倒れた。

「ちょっ!!骸此処で今日倒れんな!!」
「綱吉さわっちゃ駄目だよ?」

危険物。といわんばかりに綱吉の手を引っ張り自分の腕の中に閉じ込めたのは良いが…コレどうしようかと思案していると、窓ガラスをコツコツと叩く音がした。
「あ…犬、千種さん?」
呆れたような視線を主である骸に落とした眼鏡の方は、指で眼鏡を上げると小さく溜息を吐きぽつりと呟いた。
「…骸様なら心配いらない…めんどいけど連れて帰るから…」
そういうと、主に対してとは思えない事に後襟を掴むとづるづると引き摺っていった。
縁側から庭に下りるときにも一切容赦が無い姿に僕は少々哀れみの目を送ってしまう。

「…骸の奴〜〜っ俺が一番最初に言いたかったのにさぁ…。結局骸って…雲雀さんのこと好きなんだよね…。」
ぷっくりと膨らませた頬が可愛らしくて思わず音を発てて口吻をすれば、真っ赤になって僕の方を見上げた。
パクパクと小さな口が動いて可愛らしい。
「あのパイナップルの事はどうでもいいんだけど…綱吉は何を言いたかったの?」
覗き込めば、小さな顔は赤さを増し伸びさらさらと音を発てて琥珀色の薄い色素髪が後に流れるようにして頬と額をを撫でる。
じっと見つめれば、綱吉は身を縮めるようにして僕の顔を穴が開くような目で見つめる。

綱吉が僕の『顔』に弱いのは承知済み。
近づければ近づけるだけ逸らせなくなって、身体が硬直…又はふにゅあ〜〜っとなるのだ。
今日はどうやら全身の力が入りまくりで固まってしまったようだ。

「綱吉…?」

耳元で囁いて右手に持っていたケーキから左の人差し指で生クリームを軽く一匙救い未だに言葉を紡げない小さなぷにぷにした口唇に乗せた。
「………ん……っ?」
ぺろりと生クリームごと綱吉の唇を舐めれば甘い味が口いっぱいに広がる。
ネコがミルク飲むみたいにしてぺろぺろと舐めてから、小さな唇をちゅうっと音が鳴るように吸えば遂に綱吉の身体はふにゃりとなって僕に全身を凭れさすようにして倒れ込む。
「で、何が一番最初に言いたかったの?」
自分でも本当に性格悪いと思いながら綱吉の身体の心地良い重みを受け止めながら頬を口唇でなぞる。
ギュウっと目を瞑ってから大きな瞳がくるりと僕を見つめる。

一瞬目を下に落とし、口先を尖らせてから恥らうようにして小さな唇が開いた。


「誕生日…おめでとうございます。きょ…恭弥さん。」


小さな口から零れた言葉は、僕の心を何よりも嬉しくしてくれる贈り物だった。



「ふぅ〜ん。」


うわぁ………意地が悪いというのか…戦闘前の素敵な笑顔なんでしょうか…それは。


ちゅっ。


小さな音が耳元で鳴る。
直接入ってくる音に俺は肩を揺らして目を瞑ってしまう。
ゾクゾクって背中というよりもお尻の辺りから這い上がってくるような感覚に俺は逃げ腰になる。
「…逃げないでよ…草食動物。」
無理です。
だって…俺は所謂草食動物。貴方は肉食動物…それも肉食動物の頂点に立つ王様。
姿を見るだけでも逃げ出したい衝動に駈られるんだから。


「君が逃げないなら……」


ばちくり。


「は…?」


「………同じ事は言わないからね。」


思わず瞬き数回。
思わず雲雀さんの顔を凝視。

「なんだ…キチンと僕を見れるじゃないか。」
「っわぁ!すいません、すいません!別に睨んだりしたわけじゃないんです!!!単にびっくりしただけなんです!!!」
絵にするなら俺の目はぐるぐる渦巻きを描いているに違いなく、そんな俺を雲雀さんは笑って見ていた。


逃げないなら………


後ろ向きな俺だけどちょっとだけ…ちょっとずつでも…真っ直ぐに雲雀さんを見れるようになりたいから…

「……逃げたら咬み殺す。」

………え………?


遠くから見てるだけでも幸せだったのに…当分は彼から逃げ回る日々になりそうです。

淡い優しい初恋とうって変わったこの恋は…何だか毎日が波乱万丈で…それでもやっぱり恋なのです。
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