シリーズ物語

□ようこそ!ボンゴレへ!!7
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ザワザワと、沢山の人間が話す声が聞こえる。
学校の中なので当たり前…と言えば当たり前。
しかしながら、今は夏休み真っ只中であり、補習、講習、部活以外は近付きたく無いであろう場所に多くの生徒がひしめき合うようにしていた。
まだ早朝、補習もまだ開始されない時間にもかかわらずだ。
特に女性徒の数は半端ではない。


『うそ〜竹中の席にハヤト座ってる〜ズルい〜っ!!』
『うわぁ〜ツナ顔小さい〜』
『武かっこいいよぉ〜サイン貰え無いのかなぁ…』


キャイキャイとはしゃぐ女性徒に混じり興奮気味の男子生徒の声も聞こえてくる。
『……うぁ〜生笹川京子可愛い〜』

が、主にでは有るが、時折混じって不穏…怪しげな囁きも聞こえる。
『以外に実物可愛くないか…?』
『笹川と並んで見劣りしないぜ…』

今そのアイドルグループWhiteの笹川京子と話しているのはモデルの黒川花と…ボンゴレリーダーの沢田綱吉だった。
テレビの中で見る彼よりもふんわりとした微笑みに一部男子生徒達は釘付けになる。

そんな会話を気にもとめずに綱吉は、芸能界の数少ない友達である二人と笑顔振り撒き話していた。
その図はどう見ても、仲の良い女子が話しているようにしか見えない。

「……にしても、撮影始まったら居なくなってくれるのかしらね?」
うんざりした顔で黒川は長い髪を掻き上げた。
既に、主要以外のクラスメートは決まりエキストラも学校の生徒達の中で決まっているにも関わらずこれだけの大所帯である。
撮影が始まったからと言え、静かにいなくなってくれるとは限らない。

「全く、うるさいったらねーな…。」
「そっかぁ?撮影なんて始まる前はこんなんだろ?」

整った顔に眉間を寄せた獄寺と、いつも通り朗らかな笑顔張り付けた山本が綱吉の側に歩いて来ることで、更に華やかさは増してクラスメート役の役者達は近付け無い雰囲気を醸しだす。
「そっかぁ…山本も獄寺君もドラマ出たことあるんだよね…俺初めてで分からないことだらけで迷惑掛けちゃうかも…。」
クリーム色のブレザーが余計に綱吉の柔らかい空気を引き立たせていた。
「気にすんなよツナ!!誰だって初めては有るもんだって。」
「迷惑だなんて…是非俺に寄り掛かって下さい!!」

頬を染めて、自分の胸を叩く獄寺に周りからは高い歓声が上がり、『るせぇっ!!』と、威嚇する獄寺の声が続いた。

「……にしても、新メンバーって誰なんだろうな…ドラマ一緒なんだろ?」
山本が低い声で綱吉の耳元で囁くと先程と同じように女子の高い嬌声にも似た絶叫が室内に木霊した。
「うーん…。もしかして、同じ学年とかクラスとか違うのかも…ほら、リボーンも『弟役』的な事言ってたし…雲雀さんも学年違う役だしさ。」
小さく秘密のお話をする二人に、外野はきゃいきゃいと楽しそうな声を上げるが、獄寺と…一部の獄寺と山本好きの女性徒からは、面白くない視線を浴びさせられる。


「そういや、雲雀はコレ不味いよなぁ。」
思い出したように山本はメンバーの一人の名前を口に出した。
撮影がまだ先な骸と違い、雲雀は同じように今日からの撮影なのだ。


「雲雀さんは、午後からなんだって。」
ふにゃりとした笑顔で指と指を合わせながら話す綱吉に一同は、キュン…と、音が鳴りそうな程に胸が高鳴る。
「骸は撮影まだ先だから、他の仕事入れてるってリボーン言ってたしね。」

敵の大将役の骸は話の半ばよりちょっぴり前に出てくる為にまだ此処には居ない。
ブツブツ…と、言うよりもあからさまな文句を口にしながらも、仕事に向かった。と、彼のマネージャーであるランチアから聞いた事を皆に伝えると、途端に周りが吹き出した。
「……えっと、俺変な事言った…?」
「だって、普段隙の無い骸さんしか見て無いから…そんな子供みたいな行動するなんて…ふふっ」


「しょうがねーってツナ、骸の奴は恰好つけるし、ツナの前でしか『素』出さねえじゃん。」
「『素』があんだけデロデロなのは、どうかと思うぜ…キモイ。」

「あんただってデロデロじゃないの…。」

「デロデロ?」

人を表現するのにはあまり使われない表現に綱吉は黒川の顔を見上げる。
「メロメロ通り越してぐずぐずに崩れた感じするからよ。」


周りが遠巻きに見るなか、撮影は開始した。


「今日から転入してきた御堂凪さんだ。中途半端な時期からの編入になるが、皆仲良くしてやってくれ。」

綱吉達のクラスに一学期の半ばに転入してきた少女の教師の定番紹介から撮影は開始された。
「…御堂…凪です。よろしくお願いします。」
か細い声に整った顔立ち、人を寄せ付けない雰囲気を醸しだす美少女にクラスの男子達は騒ぎ出した。

大きな紫がかる藍色の瞳が、クラスの真ん中の列後方の綱吉を目にとめる。
その少女の視線に気が付き、綱吉は顔を上げて少女を見返す。
それからゆっくりと、教師に指示された席へと足を向ける。
そこで一旦『カット』の声が掛かり、続いてアップのシーンを撮り始める。





「っ…かれたぁ〜っ」

バタリと、机の上に両手を伸ばしたまま倒れ込む。
「お疲れさまツナ君。」
暫しの休憩時間に入り、綱吉は慣れない撮影にぐったりとしてしまう。
「ドラマとかこんなに大変なんだね〜。俺今まで撮影って、歌以外に無いから…役者さんて凄いよ。」
「仕方ないよ。ツナ君主役なんだから出番もセリフも多いから。」
ニコニコと隣の席で微笑む天使のような少女につられて綱吉も笑う。
ちょこちょこと歩み寄ってから、綱吉のシャツを掴む少女は、恥ずかしそうに口を開き掛けては頬を紅くした。
「あ…凪ちゃん。お疲れさま〜。」
今日は自分と同じ位に出番のあった少女に優しく声を掛けると、少女は頬を紅くしてうつ向き、獄寺は不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「なんだお前、10代目に何の用だ!」
キッとエメラルドグリーンの瞳が細められ、少女を射ぬくように睨み付けた。
「あの…兄が…兄がいつもお世話になってて…。」
「『兄』?」

綱吉が、思い当たらずにキョトンとすると、凪はコクリと小さな頭を動かした。
凪は別の大手事務所に所属する女子中、高生向けの雑誌で活躍するモデルだった。
最近、事務所とマネージャーである父親が揉めていると噂も有るが、人気も高く事務所が手放せないであろう。と、専ら噂になっている。


本来、このドラマはボンゴレ事務所が総てを取り仕切っているが、メインの配役を全てボンゴレ事務所のみで固めてしまうのは、後々やっかみも有るだろうとのことで、他の事務所の若手も多く起用している。
彼女は、その中でも最重要な役の少女だった。


しかし、大物女優だった母親の死後はそのマネージャーである義父がまだ小学生だった娘のマネージャーとして、芸能界にデビューさせている事以外は彼女のプライベートは余り世には知られていなかった。
「えっと…学校の…かな?」
思い当たる節が無く綱吉は首をかしげて凪を見るが、藍色の瞳は横に揺れる。
「違う…の…あのね…お兄ちゃん…」
小さな声が必死に言葉を錘ごうと開くのを遮るように休憩中の教室に舞台映えしそうな声が通り抜けた。
「ボンジュール〜綱吉君!!!貴方の骸が家の可愛い凪がお世話になってるご挨拶に参りましたよ〜っ!!!」
幸いに、撮影で一般の生徒の立ち入りを禁じていたために他に見られる事は無かったが、他の事務所の新人俳優達は目が点になっていた。

「……む……骸…」
やや驚き、ややゲンナリした声で現れた人物を呼ぶのは、チームボンゴレ。
「おめぇ、今日撮影無いだろうがっ!!」
いち早くつっかかるのは、骸と同じく正統派美形の獄寺である。
しかし、つっかかるようにして前に立ちはだかるが、宝塚か闘牛士よろしくヒラリと回転してかわすと綱吉の座る席まで軽い足取りで近づいた。
片膝を着き、シェークスピア劇でも始まるか如くに小さな綱吉の手を取りうっとりとした藍色の瞳を向ける。
先程までの驚きは彼方に忘れ、彼の美しさに女生徒役の少女達は、うっとりとした瞳をしている。
「貴方に会いたい一心で仕事の合間をかいくぐり…愛しの綱吉君に…アダッ!!!」
「……………骸又…お仕事さぼったの?」
ふんわりとした空気から一転暗雲立ち込める教室内。
「いえ、違いますよ。此処へは仕事に行く途中にですね…通り道で…」
「…又ランチアさんに無茶言ったんでしょ…。」
ニコニコと微笑んでいた美麗な骸も空気がピリピリと感じて、流石に顔がひきつり足が一歩後退仕掛けたその瞬間、ビシッと鈍器とも鋭利とも言える音が空を割くように現れた。

一瞬、ヒッと高い声を上げた女優の卵達は、音を出した方を恐る恐る見て歓喜の声を上げた。
「君…今日は此処じゃないよね。」
聞き慣れた低い声に綱吉は顔を上げて名前を呼び掛けて、動きが止まる。


「……綱吉大丈夫…?」


現れた恋人に綱吉の視線は釘付けだ。

「…はわ…わわ…雲雀さん…かっこいい…ですぅ…。」
綱吉達のクリーム色のブレザーと違い、雲雀が纏うのは黒の学ランだ。
白いシャツに黒いズボン。血のように真っ赤なネクタイ。肩に黒の学ランを羽織り、颯爽と現れた雲雀に綱吉はそれこそ「デロデロ」な表情をして見つめた。

「綱吉?」

はうはうと、呼吸を繰り返しては頬に手を宛ててまんべんなく見つめる。

「……どうしたの…?」

低いが、優しげで暖かい声に周りの生徒役の少女達もうっとりとなった。
テレビや噂で聞く彼とは全く違い、溶けるように甘くて優しい麗人。
骸と言い、雲雀と言い噂とは全く違う彼らを見せつけられた少女達は、俳優と言う役を忘れてうっとりとしてしまう。

「雲雀さ…かっこいい…です。」
ふにゃぁ…と、溶けそうに言われ雲雀も悪い気はしない。「そうかい?」と、素っ気なく返した言葉は、柔らかく暖かい。

綱吉はひたすら「かっこいい」とと言っては、雲雀に頭を撫でられ又照れた。そんなふうなほんわりとした状況を見逃せる訳がないのは、殴られた骸だけではない。
「ナンデスカ!?いきなり現れて、いきなり殴るなんて野蛮な男ですね君は!!!」
「何いきなり出てきて10代目を脅してやがる〜!?かっこいい何て俺だって言われて〜ってぇの!!」
小さな火山のように獄寺も噛みつく。
「……うるさいね。とりあえず…綱吉は僕をかっこいいって言ってるんだよ。問題無いじゃない。問題有るのは仕事サボりの毒ナップルでしょう。」
「あ、そうだ。骸、又ランチアさんに無茶苦茶させたんでしょ…いい加減にしないと、暫くは本当に口を利かないからね。」
ブクリと頬を膨らませて、怒っている綱吉を可愛いと思い、表情を崩していながらも『本気で口利かない』に困り骸は、捨てられた犬…飼い主に怒られた犬のようになってしまう。
「いいんじゃない?一生口利かなくても…。」
綱吉を後ろから抱き込んだ雲雀が、全ての言葉を言い終える前に、後方からか細い、泣き出しそうな声が掛かる。
「あの…違うんです。わた…し、私が…ドラマ初めてだし…友達居ないから、不安だって言って…お兄ちゃんに来てもらったん…です。」

「お兄ちゃん………?」

泣き出しそうな声の主を見て再度該当人物を見る。両手を握りフルフルと震える少女を見比べた。

確かに似てない。とは言えない。しかしあの特徴あるフサフサな後ろ髪は、ドラマでの骸の関係によりかと思っていた。
「あの…初めまして…六道凪です。」


「えぇえぇ!?!!!!」


と、いう叫びは珍しく雲雀の『ワォ…』と驚いた声を掻き消した。
そのあと、ジーッと、凪を見つめた全員がポツリと『可哀想に…』と、呟いた。
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