シリーズ物語

□蜂蜜月光《未完》
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深淵に落とされる。

暗い闇は何処までも付いて回って来る。
人を恐宴に誘う。

月の光も射し込まない森は、人処か、生きとし生ける者を拒んでいるかのようだ。

暗闇に紛れ息をする彼と同じ様に。


暗闇に包まれた青年は、息を僅かに付き、己の腕に在る存在を見る。
愛しむ様にゆっくりと眼を細めて腕の中のモノを見る。
彼を知る誰もが見たことのない、穏やかな表情だ。唯一の例外も居た。
誰より近く、彼の柔らかい表情を目にすることが出来る存在が………。



でも、今は居ない。



それが彼を狂気に突き動かす。


停めれる人物は、もう居ないのだ。
彼を繋ぎ止める人はもう。


闇より黒い瞳は、大切に腕に在る存在を抱え直す。
上等すぎる白い布地に包まれた荷物は、長身では有るが大男では無い青年には些か大きい荷物に見える。

それに優しく唇を落とし小さく息を飲む。
動かない荷物から、抱え直した衝撃でゆっくりと何かが落ちかけた。
真っ黒な闇に包まれているのに、決して染まることは無いほどに白く見えた。


青年は小さく何かを囁き、腕に抱いていたモノを降ろすため、地に膝を付いた。
優しい手付きで近くに在る大きな木の幹に荷物をもたれさせ、立ち上がる。


「しつこいよ。」

小さいが鋭く響く声だ。

聞くものを震えあがらせるには充分な程。


夜に支配された森に葉が擦り合う音が幾つかして、幾つかの影が浮かび現れる。

「おおぃ。ソイツは返して貰うぜっ!」

闇に浮かび上がる銀糸の長い髪が風に煽られたなびく。
「何で返さなければならないの。」
コレは最初から、僕のモノだ。
何時だって、他人のモノにはなって居ない。だから、返す必要はない。

闇に浮かぶ影から延びる腕には、相反するかのように光るエモノが見えていた。
銀色の光は隠れた月の代わりのように淡く青年を見下ろす。
「逃げ切れる訳が無いでしょう。」
だったらいっそ、殺してみてくれないだろうか?
「……こんな馬鹿な事するとは、思わなかったよ。そんなん、嵐か霧のヤツ位かと警戒してたのにさぁ。」
一緒にしないでくれないか。
僕は……………

「返して貰うぜ。」
もう、君たちには必要ないでしょ。

闇に紛れこんだような青年は、両手に銀色の棒状の武器を構えた。
「闇夜の戦いが得意な訳じゃねぇだろ。無駄な事をすんなよ…。」
厚い雲に覆われた月は姿を見せる様子も無い天候だった。

空は二度と笑わない。


「……………。」


貴方が、幸せで在れば良い。と言って、哀しそうに微笑んだ少年が居た。
教えて欲しい。
幸せになる方法を。
「…埒があかねぇ、もう始めるぞお。」

永遠に失ってしまったんだ、僕は。その方法を。

厚い雲に覆われた月がゆっくりと姿を現す。
淡く、包み込むような光は幾つもの影を色鮮やかに浮かせて見せた。
黒の青年にも光は届き、少し長めの前髪から光る吊り上がる黒い眼も、冷酷なまでな美貌
を照らしだした。

ゆっくりと月の光は延び、青年の後ろに横たわるモノも照らす。

淡い月光を更に甘く魅せる琥珀。
その姿に、追ってきた集団が僅かに息を飲み、眉を辛そうに潜めた。

何時も大きく輝きを放つモノは閉じられ、永遠に開く事が無い。

白さを通り越した肌には、彼が生きている証拠を見せない。

重力に逆らう事なくダラリと、白い布地から落ちた腕


微笑んだ君は、もう居ない。
失ってしまった。
永遠に。

「…いいよ、じゃあ始めようか。」

黒い瞳の青年が飛び込む直前、向かえ打つ為に身構えた集団の後方から強烈に光りを放つモノを眼に捉え、青年の目を真っ白に染めた。
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