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   ただ単に君が


◆も 

「もしも、もしもよ」

それを話の前提に置いて、冷麗はイタクに問いた。

「あの子がここからいなくなる時が来ても、イタクは想いを伝えないの?」

いつも鋭い眼光がより一層鋭くなる。
睨みつけるようなその目つきに怯む事なく、冷麗はもう一度口を開いた。

「言わなかったら後悔するわ」

真っ直ぐに見つめてくる視線に堪えられなくなったのかイタクはふいっと顔を逸らし、冷麗に背を向ける。
イタク、とどこか咎めるような彼女の声色に漸くイタクが言葉を発した。

「もしもの話じゃねぇだろ」

もしもの話をしよう
(苛立ったようにも聞こえる悲しい声に)
(それ以上何も言えなくなった)


【イタク×兎】

2011/12/22(Thu) 15:39  コメント(1)

◆め 

サンタクロースなんて信じる年じゃないし、プレゼントをねだるような子供でもない。
それでも大人達は毎年毎年芸もなく、枕元に沢山のプレゼントを用意していく。

「(……………………山崎さん…)」

12月24日の真夜中。
抜き足差し足忍び足で誰かが部屋に入って来た気配で浅い眠りから目覚める。
狸寝入りをしながら、わざわざ監察を使ってまでクリスマスという行事を遂行する大人に苦笑いが漏れそうになった。
静かに静かに、音を立てないようにと部屋に運び込まれる綺麗にラッピングされた箱の山。
任務を終えて安心したのか、鼻唄交じりで出ていった監察を気配で感じながら布団から顔を出す。

「今年も大量です…」

最早呆れを通り越して渇いた笑いしか出て来ない。
さっきも誕生日プレゼントを貰ったばかりなのに、また今年も置き場所に苦労しそうだ。
暗闇で光る携帯のサブディスプレイ。
浮かぶ名前は自分と同じ状況にある、幼馴染みの彼から。
冷え切った部屋の中、寒さで鼻がツンと痛むのも気にならないくらい、気持ちがほっこり温かかった。

Merry Merry X'mas
(気付かないふりをして)
(まだ子供でいてみようかな、なんて)


【真選組×兎】

2011/12/22(Thu) 12:56  コメント(0)

◆む 

今でも鮮明に覚えている。
貴方の声も、仕草も、頭を撫でてくれた優しい手つきも。
この世に生を受けたその瞬間からずっと共に在り続けた大切な片割れ。
いつだって貴方の背中を見送り、いつだって貴方の帰りを待っていた。

「……………兄上…」

毎年二人の祝い事。
八年前から一人分になった"けーき"が淋しくて仕方ない。

昔は二人のバースデイ
(頬を撫でる春風が)
(もう泣くな、と慰めてくれた気がした)


【鯉伴×姫】

2011/12/14(Wed) 21:09  コメント(0)

◆み 

ぱしゃん

「御召し物が汚れてしまいますよ」
「あら、そんな事気にしちゃダメよ。黒羽丸もやってみない?」

ぴしゃん、泥が跳ねて着物の裾を汚すのも気にせず、銀色の髪を揺らして彼女は小さい水溜まりの中を跳ねる。
昔リクオ様に「コーヒー牛乳だよ」と言われ飲まされそうになっていた黒田坊を思い出し、内心苦笑いを零した。

「足を濡らされてはお体が冷えます」
「野暮な事言いっこ無しよ。これは雨上がりにしか出来ない事なんだから」

ぱしゃっ、とまた泥が跳ぶ。
小さな子供みたいに水溜まりに足を入れる彼女の姿に、後少ししたら強制的にでも上がって頂かなければと思っていた矢先、急にぐいっと腕を引かれた。
バランスを崩して反射的に足を着いたのはぬかるんだ地面。

「飛んでばかりじゃ地面の楽しさを忘れちゃうわよ」

泥の付いた顔で悪戯に笑った彼女に、結局こうなるのかと何となく予想していた事に口元を緩めた。

水たまりを跳ね上げて
(嫌いなはずの雨上がりの地面も)
(貴女と一緒なら好きになれる)


【黒羽丸×姫】

2011/12/03(Sat) 13:13  コメント(1)

◆ま 

今日もね、牛頭が僕の事叩いたんだよ。真面目に修業しろとかガキかお前はとか言って。酷いよね。牛鬼様も最近お忙しいから構ってくれないし。本家預かりじゃなくなったから山に帰れたのは嬉しいけどお姫様がいないからつまんないよ。ねぇ早く牛鬼様のお嫁さんに来て?何なら牛頭でもいいけど牛頭にお姫様は勿体なすぎるからやっぱり牛鬼様がいいと思うんだ。だからね、あの鴉に泣かされたらすぐ僕に言ってね。すぐにお姫様の事迎えに行くから。でね、そしたら一緒に捩目山で暮らすの。すっっごくいい考えだと思わない?だから絶対言ってね。約束だよ?

「ふふふ、分かったわ。約束ね」
「うんっ!ぜーったいね!」

マイナスイオン発生中
(日溜まりみたいにあったかくて)
(君は僕に安らぎをくれる場所)


【馬頭丸×姫】

2011/12/03(Sat) 12:54  コメント(0)

◆ほ 

机の上に並ぶ、綺麗にラッピングされた三つの箱。
一つは大らかで優しい大将に、一つは色男の兄貴分に、一つは幼馴染みのドS王子様に。
料理は全くと言っていい程出来ないから毎年市販のチョコレート。
お菓子業界の策略だなんて重々承知。
チョコを買った時にレジで一緒に貰ったメッセージカード。
日頃言えない気持ちを書いてお渡ししてはいかがですか、と愛想のよいお姉さんから貰ったもの。
自室の机の前で筆を握ってかれこれ三十分。

「……口にせずとも伝わりゃいいのです」

せっかくくれたお姉さんには悪いけど今更こんな事恥ずかしくて例え手紙でも無理。
たった一言書かれたカードをくしゃりと乱暴に丸めて、傍のゴミ箱に押し込んだ。

「近藤さーん、トシさーん、総ちゃーん」

本音は丸めてゴミ箱に捨てた
(HAPPY VALENTIN'SDAY!!)
(大好き、は伝わればいいんです)


【真選組×兎】

2011/12/03(Sat) 12:38  コメント(0)

◆へ 

お餅をついて餡を絡めた、今日の差し入れは餡餅。
重箱に詰めていつも通り仲間達が集まる稽古場へと足を運ぶ。
いただきー、と皆が取るのは私や紫が作った形の良いものばかり。
ぽつんと端っこに残る歪な丸は誰にも見向きもされない。

「今日は餅か」

一足遅れて来たイタクはそう言うと、何の戸惑いも無しに忘れ去れていたようなお餅を取っていく。
綺麗なお餅はまだあったのに彼は迷いもせず、あの子が作ったものを選んだ。

「ふふふ」
「ンだよ、いきなり」

怪訝な顔に、何でもないと笑ってごまかす。
相変わらずの仏頂面。
でもその隣には晴れた空のように明るい笑顔が咲くのよね。

へたっぴなまんまる
(思った通りのすっかり見慣れた光景に)
(早くくっついちゃえばいいのにと思う)


【イタク×兎】

2011/12/02(Fri) 15:40  コメント(1)

◆ふ 

目の前に垂れ下がる紐を不思議に思いながらも好奇心からそれを引っ張ってみた事が首無の悲劇の始まりだった。
ざっばーんっ
上から大量の水が降ってきて、更にはその水が入っていたのだろうと思われるバケツまでもが落ちてきた。
突然の出来事に付いて行けず、始めのうちこそ呆然としていたが正気を取り戻すと、怒りでわなわなと体が震える。
この広い屋敷と言えどもこんな事をするのは彼らだけだ。

「っあンのっ馬鹿兄妹ぃぃぃぃ!!!!!!」

双子の思惑
(仲良し兄妹の企みに)
(今日も屋敷は荒れ模様)


【鯉伴×姫】

2011/12/02(Fri) 15:25  コメント(0)

◆ひ 

こっそりおやつをくれた時。
テストの点数があまり良くなかった時。
一緒に罠を作った時。
鴉天狗の説教から逃げてきた時。
皆に見つからないよう屋敷から抜け出す時。
彼女はまるで幼い少女のように、悪戯にウインクして決まってこう言うんだ。

秘密よ、ひみつ
(その言葉は楽しい事の始まりみたいに)
(いつも僕をワクワクさせた)


【リクオ×姫】

2011/12/02(Fri) 12:50  コメント(0)

◆は 

視線の先。
幸せそうに笑う大好きな姉貴分と優しい微笑みを浮かべる青年。
幼かったあの頃、淡い感情を抱きながらずっと柔らかな彼女を見ていた。

「かなわねーな……」

自分には姉の顔。
彼には女の顔。
一度好きの感情向けた彼女は、想いが色褪せた今でもずっと特別な存在。
例え子供時代から育ててきた想いが健在であっても、自分には彼女にあんな顔をさせてやる事はきっと無理に違いない。

「……お幸せに」

ばいばい、初恋
(いつか君が好きだったんだと)
(言える日が来るのだろうか)


【鴆×姫】

2011/11/06(Sun) 22:41  コメント(1)

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