気まぐれプリンセス

□03
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壁に吊り下がるカレンダーを見ながら泡は、んー…と何かに思い悩んでいた。
師走の下旬、日付の下に"クリスマス"と小さく書かれた今日は恋人達の一大イベント。


「マフラーは去年だったし…どうしようかしら」


頭に浮かぶのは、赤みがかった黒い羽を持つ愛しい彼の姿。
恋人同士になって初めてのクリスマス。
いつもと心持ちが違うせいか、肝心の贈り物が当日になった今でも何も思い付かない。
書物、手作りの甘味、扇子、着流し…様々な候補が泡の中で出たが、ピンと来るものがなくどれもいまいちだった。


「やっぱり毛倡妓に相談した方が良さそうね…」


いつも的確なアドバイスをくれる親友の顔を思い浮かべ、彼女がいるであろう茶の間へ足を運ぶ。


「毛倡妓、いる?」


スッと開けた障子の向こうには、どろっどろの昼ドラを見ながら茶を啜る毛倡妓と雪女がいた。


「あら、姫。どうしたの?」

「泡様、ご一緒にお茶いかがですか?お菓子もあるんですよ」

「ありがとう、雪女。でも今はいいわ。ちょっと相談があるんだけど…二人に聞いてもらえないかしら?」

「なァに改まって。当たり前でしょ、話してごらんよ」

「そうですよ泡様!若輩者ではありますがこの雪女、泡様のために頑張ります!」

「ありがとう。実はね…──」


快く承諾してくれた二人に安堵し事情を話すと、成る程ねーと毛倡妓から納得した声が返ってきた。
雪女も同じようで、腕を組みながら、うーん…と考え込んでいる。


「てか姫、それ当日に言う事?」

「悩んでたらいつの間にか当日になっちゃったのよ。それに前もって相談したら毛倡妓からかうもの」

「あらー、分かってるじゃない」


ニヤニヤ笑う毛倡妓に、長い付き合いだものと泡は悪戯に笑う。
その隣で雪女は何やら良い考えが浮かんだようで、そうです!と声高らかに叫んだ。


「私がさりげなーく黒羽丸に欲しい物がないか聞いてくればいいんですよ!そうすれば確実ですっ!」


うんうん、と自分の考えに余程自信があるのか満足げに頷く雪女に毛倡妓が冷静にツッコむ。


「それは一般的な解決策でしょ?相手はあの黒羽丸よ。若のお役に立てればいい、とか返されるに決まってるじゃない」

「うっ…た、確かに」


しゅんと落ち込む雪女の頭を撫でながら泡が優しく慰める。
仲良し姉妹さながらなその二人に、こうなったらアレね、と毛倡妓が呟いた。


「アレ!そうね!アレね!」


先程までの落ち込むはどこに行ったのか、毛倡妓の一言に復活を果たした雪女の目は爛々としている。
コロコロ変わる表情を可愛らしいなと思いながらも、自分には通じない会話に泡は首を傾げた。


「アレ、って?」

「そうと決まれば早速準備よ、雪女」

「分かったわ!」

「え、え?毛倡妓?雪女?」

「さあ泡様!気合い入れていきますよっ」


訳の分からぬまま、両側から二人にがっちりホールドされてしまい強制的に女部屋へと連行されていくのだった。

─────

その頃、夕刻のパトロールまで自室で本を読んでいた黒羽丸に来客(と言っても本家の誰かだが)が訪れた。


「「黒羽丸」」

「………何だ」


にっこにっこ、と気持ち悪いくらいの笑顔を浮かべる毛倡妓と雪女を訝しく思いながら用件を聞く。
瞬間、にやあっと厭らしく歪んだ彼女らの口元に、やっぱり聞かなければよかったかもしれないと後悔するがそれももう遅い。


「毎日頑張ってる黒羽丸に」

「私達からのプレゼントよ!」


じゃーーんっ!
効果音をわざわざ声に出す雪女に背中を押され、現れた贈り物に黒羽丸は目を丸くする。


「えーと………私?」


銀の頭に赤いリボンを付けた最愛の人。
お好きにどうぞ、と耳元で囁かれた毛倡妓の言葉にこれ以上ない程顔が真っ赤に火照った。


赤のリボンは最終手段

(貴方にあげるわ)
(今日は私がプレゼント、なんてね)



─Merry Christmas!!




end

今回はしてやられちゃった泡様(←笑

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