気まぐれプリンセス

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ふと思う。
アナタは元気ですか?
泣いてはいませんか?
俯いてはいませんか?
下を向いていては分からない事がたくさんあるのよ、と。


「雪女、ちょっといいかしら?」

「はい。いかがされましたか?泡様」

「あのね───」

─────

ブーブーとジーパンのポケットの中で無機質な現代機具が震える。
暗闇で光るサブディスプレイに浮かぶのは、ここ最近で増えた"本家"の文字。
本家と一くくりに言っても俺に連絡をするのは頼りない若頭か、昔から敬愛する雪女の姐さんか、口煩い目付け役の三人に限られる。
スライド式の携帯電話を馴れた手つきで扱い、新着メールを開けばそこにはたった一言。

【今夜は月が綺麗よ】

それは三代目を継ぐ彼からでも、冷たいのに優しい彼女からでも、目つきが鋭いミニマム鴉からでもない。
名前なんかなくたって分かる─柔らかく笑う彼女からの電子手紙。


「──姉様」


機械はてんでダメなはずなのに。
大方、若頭か姐さん辺りを捕まえて使い方を聞きながらの大作業だったのだろう。


「月か…」


そういえばここ最近忙しすぎて空を見上げる事など全くしていなかった。
昔はよく親父や姉様と見てたっけな、そう思いながら縁側に出て頭上の闇を仰げば─コンパスで描いたような見事な真ん丸お月様。
強い存在感があるのにその光はどこまでも優しくて暖かい。


「あの月、姉様の目みたいです」

「あら、私には猩影くんの目に見えるわ」

「俺の目はあの色じゃありません」

「色は違うけど、綺麗で優しいとこなんかそっくりよ」

「…やっぱりあの月は姉様です」

「ふふふ、じゃあきっと私達は似てるのね」



小さい頃のやり取りがふと頭を過ぎる。
今日の満月も彼女のようだ。
綺麗で優しくて穏やかな金色。


「猩影様!?どちらへ!?」


気がつけば駆け出していて、焦る傘下の妖怪を振り向きもせず「本家!」と言い放ち屋敷を出た。
メールの返事をしたほうがよかっただろうかと頭では呑気に考えながらも、足は早く早くと地面を蹴る。

 会いたくて仕方ない

「猩影くん」

 名前を呼んで、頭を撫でてほしい
 こんなにも自分は甘ったれだったろうか


「姉様!」


いきなり来た俺に姐さんも兄貴も驚いていたけど、その視線を全部振り払って、駆け付けた先には─


「いらっしゃい、猩影くん」


月の光を浴びて、柔らかい笑みを浮かべる大好きな人。


「一緒にお月見しましょうか」

「─はい!」


電子手紙に愛を添えて、
([二人分の団子…]俺が来るって分かってました?)
(ふふふ、さあ?どうかしら)

─お姉ちゃんには全部お見通し




end

偽・猩影くん警報!!!!
恋愛感情は一切ないんですよ。
甘えん坊な弟希望(*`艸`)

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