気まぐれプリンセス

□01
1ページ/1ページ

「この色男。どうやってアノ超がつく程ガードが固い泡様を落としたんだよ」

「やるねやるね。んでどこまでいった?接吻はもうやったか?」

「あんまり慎重になりすぎると女は逃げちまうぜ。ガバッといけよ」


パトロールから戻るとどんちゃん騒ぎになっている本家。
今日は何かあっただろうかと立ち尽くしていると「お、主役の登場だね」と毛倡妓に無理矢理上座に連れて行かれ、今に至る。
わらわらと回りに集まる小妖怪の話を適当に聞き流しながら、広間のどこかにいるであろう愛しい人の姿を探す。


「よう黒羽丸、飲んでるか?」


酒瓶片手に音もなく現れた年若き主。
彼女と同じ銀髪を靡かせた彼はほろ酔い気分なのか些か顔に赤みがかっているように思える。


「いえ、まだ夜明け前の巡回が残っていますので」

「固ェ事言うな。今日はオメェが主役だ」

「いえ。任務ですから」

「相変わらず真面目だな」


ククッと喉で笑う若君に末座に戻る事を告げ、腰を上げると「まあ待て」と無理矢理引き戻される。
その顔がニヤニヤと厭らしく笑っている事はどうか見て見ぬふりをしたいものだ。


「若、ここは私が座るような所ではありません。食事でしたらいつものように下で取らせていただきます」

「今はそうだとしても近い将来は違うだろ。義兄さん」

「にッ…!!!!」


カァァっと頬に熱を感じたと同時に目の前の人物がニヤリと薄い笑みを浮かべる。


「俺としては早く妹か弟の顔を見てーんだがなァ」

「わ、若!何を…!」

「鴉天狗にとっちゃ初孫になる訳だ。どうだ黒羽丸、いっちょ今夜辺り。部屋なら用意してやるし、人払いもやっとくぜ」


上手い具合にペースに乗せられているとは分かってはいても主人の言葉に顔はますます熱を持つばかり。
誰か第三者にでもこの場の流れを崩してもらおうと思うも頼みの父と弟妹はこの宴会にすっかり馴染んでしまっていた。
「泡様が双子だったなら子も双子の可能性が高いの!!」「今度から姫の事は"泡義姉様"でどうだ?」「いや、ここは"お義姉様"とシンプルにいった方が…」などという会話が聞こえたのは無視すべきか、ツッコむべきか─
コホンと一つ咳ばらいをして、気分を切り替え、話を変える。


「ところで若。先程から泡様の姿が見当たりませんが」

「ん、ああ」

「どちらに行かれたのですか?」

「さっきまで酔っ払った首無に『幸せになって下さいねェ!!』って泣きつかれてたけどな。そういやどこ行ったんだ」


キョロキョロと辺りを見渡す若に倣い、同じように部屋中を見回すが下戸の首無が酔い潰れているだけで銀色の姫は見当たらない。


「探して参ります」


若の返事も聞かぬままに広間を出て屋敷内を回る。

まだ今日は聞いてないんだ。
彼女からの─『おかえりなさい』を。


「泡様」


凜と通るあの声を、
流れるような銀糸を、
優しげに細められたあの金瞳を、
ふわり、柔らかい笑顔を、
 早く 早く 早く


「そんなに急ぐと危ないわよ?」

「!─泡様」

「ふふふ、どうしたの黒羽丸。何か探し物かしら?」


満開の桜の木に輝く銀。
いつもなら夜のお姿をした若がいるであろうそこに目当ての姫がいた。
月を背に微笑む彼女に暫し見取れていたが、すぐに我に返り「危ないので早く降りてください」と言い、羽を広げ同じ高さに並ぶ。


「ずっとここにいらしたのですか?」

「ええ。少し涼むつもりで」

「春とは言え夜はまだ冷えます。風邪を召されては大変です。戻りましょう」

「大丈夫よ。それより急いでたみたいだけど、もういいの?」

「─はい。もう見つかりましたので」


滑らかな白い頬に手を伸ばすと望んでいた柔らかな笑みが向けられる。


「とても大切な私の宝物です」

「ふふふ、奇遇ね。私も丁度今宝物が見つかったところなのよ?」


優しい、でもどこか悪戯を含んだ凛とした声が耳に心地好い。


「お帰りなさい、黒羽丸」


欲しかった言葉を貰い、緩む口元をそのままに─


「只今戻りました、泡様」


細められた金色にどうしようもない愛しさが募る。
もう少しだけ美しい姫君の傍にいたくて、彼女にそっと手を差し出した。


「今宵は綺麗な満月です。夜空の散歩はいかがですか、姫」


そう言うと嬉しそうに微笑んで、差し出した左手に白い右手が重なる。


「ふふふ、お願いするわ」

「─お任せください」


壊れ物を扱うように優しく抱き上げるとすぐに柔らかい感触が頬に落ちてきた。
慌てて腕の中の泡様を見れば、悪戯が成功した子供のようにクスクスと笑っている。


「顔が真っ赤よ?黒羽丸」

「なっ…!!泡様!!」


今だに慣れない彼女からの接吻。
小さく笑う様が何だか悔しくて、仕返しと言わんばかりに桜色の唇を掠め取った。


「泡様のお顔も赤いですよ」


色付いた白い頬に満足げに微笑むと彼女もまた優しげに微笑む。
まだ冷たい夜の春風が火照った頬に調度良い。


「お慕いしております、泡様」

「私も、黒羽丸が好きよ」


さあ、愛しい愛しいあの人と─


愛の逃避行と行きましょう
(呼んで来いって言われてもよ…)
(あの雰囲気じゃ入れねーよ…)
(黒羽丸が笑うの初めて見た…)




end

リク下さった方、随分お待たせしてしまった上にこんな駄文ですみません(T_T)
話が全く纏まってない…

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ