気まぐれプリンセス

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「ささ美ちゃん、お勝手に雛霰持っていってくれるかしら?」

「はい」

「雪女、雛壇を片付けるから青田坊と黒田坊を呼んできてくれる?」

「分かりました!」


本日3月4日。
昨日は3月3日、桃の節句。
雛人形や調度品を飾り、白酒・菱餅・桃の花などを供えて女児の幸せを祈る行事。
本家の子供が男の子だろうが何だろうがこのお祭り好きな妖怪達には関係ない。
昨日も雛祭りに託け、朝から飲めや歌えの大騒ぎだったのだ。


「五人囃子に三人官女、あとは…」


雛壇に飾られた人形達を一つ一つ丁寧に箱にしまっていく中、一際美しい人形を前に手が止まった。


「お雛様、か」


小さい頃はずっと憧れていた。
綺麗な着物を着て、好きな人の隣に幸せそうに並んでいる彼女を。
それは今も─


「ねえさん?」


子供特有の高い声に呼ばれ、振り返ればそこには今年で4つになった可愛い甥っ子の姿。


「もうおかたづけするの?」

「ええ。出しておくとまた宴会しかねないものね」


まだまだ雛祭りだー!何て言って酒を引っ張り出してくる妖怪達が目に浮かぶ。
「それにね、」とリクオに告げると、色素の薄いくりくりお目めが泡を映した。


「雛祭りを過ぎてもお雛様をずっと出しておくと結婚が遅れる、っていう話があるのよ」

「?けっ、こん?」

「そう。このお雛様みたいに綺麗な着物を着て、大好きな人とずっと一緒にいるの」

「じゃあボクとねえさんはけっこんしてるの?」


嬉々とするリクオに一瞬きょとんとするも、子供らしい発想にクスリと笑みが零れる。


「ふふふ、それはとっても素敵だわ。でも結婚とは少し違うかしら」

「?ボク、ねえさんだいすきだよ?」

「私もリクオが大好きよ。でもね、結婚は元服を迎えて大人になってからじゃないと出来ないの。その頃にはきっとリクオの隣には大切な人がいるわ」


んー?と首を傾げるこの子はきっと話の大半を理解していないだろうけど、今はまだそれでいい。
物悲しいけれど、いつか素敵な彼女を連れてきてくれるから。


「ねえさんもけっこんするの?」

「そうね、好きな人が出来たらそうしたいわ」

「すきなひと?ぎゅーき?」

「牛鬼?んー…」


なぜそこで牛鬼をチョイスしたのかは分からないが、何と答えるべきかと泡は困ったように笑った。


「ぎゅーきとけっこんしたらぎゅーきはボクんちにいる?」

「え?そうね…もしそうなったら姉さんが牛鬼のお家に行くようになるかしら」

「ねえさんが?」

「ええ。お嫁に行く身だもの」

「………………ダ」

「リクオ?」

「ヤダぁぁぁ!!!!!!」


ギューっと腰にしがみつき、急にヤダヤダと連呼する子供に泡は混乱するばかり。


「リ、リクオ?どうしたの?」

「ヤー!ヤなの!!!!」


ぶんぶんと頭を横に振って否定し続ける甥に泡は疑問符を浮かべるしかない。
とにかく落ち着かせるようにと優しく背中を撫でる。


「ねぇリクオ、何が嫌なのか姉さんに教えてくれる?」

「………だって、」


ゆるゆると上げた顔は悲しそうで、大きな瞳に溢れんばかりの涙が溜まっていた。


「おひなさまかたづけちゃうから、ねえさんけっこんしちゃうんでしょ?」

「え?」

「ここにいなくなっちゃうのヤダ!ボク、ねえさんといっしょがいい!!」


しっかりと抱き着くこの子の言いたい事が漸く理解できた。
その瞬間どうしようもない嬉しさと愛しさが心に広がる。


「おひなさまかたづけないで!!けっこんしちゃヤダ!!」


ヒックヒックとしゃくり上げて泣くリクオを泡はギュッと抱きしめた。
「ねえさん?」と腕の中から聞こえた不思議がる声にゆっくりと体を離し、向き合うと流れる涙を指で優しく掬う。


「大丈夫よ。お雛様を片付けたって姉さんは結婚しないわ」

「…本当?」

「本当よ。姉さんもリクオと一緒がいいもの」


不安げな表情が一変して嬉しそうに綻ぶ。
夏の太陽に負けない位輝かしいその笑顔に、今来ている縁談やお見合いは全てきっぱり断ろうとそう思った。


「ぜったいぜったいいっしょだよ!」

「ええ。絶対絶対絶対一緒よ」


もうすぐ大人になるから
(それまでは可愛い可愛いこの子と)
(ずっと一緒にいたいと、そう願う)


「泡様!牛鬼と結婚なさるとは誠ですか!?」
「……………(苦笑)」





end

最後はカラスちゃんとヒロインちゃんです。
黒羽丸はショックで寝込んでます(←笑
チビリクオ楽しかったvV

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