気まぐれプリンセス

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総会を明日に控えたこの日、牛鬼組頭牛鬼は本家に来ていた。


「泡様」


庭ですねこすりと遊ぶ銀髪の少女。
あどけない中にも美しさと優美さがあるその子は、己が忠誠を誓うぬらりひょんの愛娘。


「牛鬼、いらっしゃい」


パタパタと歩み寄ってきた泡に目線を合わせしゃがむと、眩しいほどの笑顔を見せてくれる。


「今日はお一人ですか?」


いつも一緒にいる双子の兄の姿が見えない事を尋ねると眉を下げ、困ったように笑った。


「兄上は母上と出かけちゃったの。私はお留守番」


少し淋しげなその表情にも美しさが見え隠れする。
母親譲りの美貌と純粋さを持ち、父親譲りの自由奔放さと芯の強さを持つ幼い少女。
どうしようもなく愛しいと思うのは親が我が子を慈しむような愛か、否か─


「どうかそんなに悲しい顔をなさらずに。泡様に手土産がございます」

「え?私に?」

「はい。お気に召されるとよろしいのですが─」


着流しの袖下から取り出した包み。
小さな掌にそっと乗せると金色の瞳がキラキラと輝く。


「開けてもいい?」


うずうずとしたその様子に頬を緩ませながら頷いた。
丁寧に包みを開くと「わあ!」と上がる嬉しそうな声。


「綺麗…」


翳したそれは太陽の光に反射し煌めく。
七色に輝く水晶の蝶、その下には丸い桃珊瑚が三つ連なった気品溢れる簪。


「いかがですか?」

「素敵!ありがとう、牛鬼!」

「いえ、泡様が喜んで下さるなら」


簪を胸に抱き、嬉しそうに笑うその顔は年相応で。
愛しい─とただそう想う。


「私でよければ髪にさして差し上げますよ」

「いいの?」

「勿論」

「じゃあお願いしようかな」


そう言って簪を手渡し、クルリと小さな背を向けた。
さらり、流れる髪は父譲りの美しい銀色。
指通りが良くて、滑らかなその銀を丁寧に丁寧に一つに纏めていく。
高い位置で結ったそこにスッと簪をさせば、ほら─お姫様の出来上がり。


「よく、お似合いです」


動く度に銀髪からチラチラと覗く小さな蝶。
ゆらゆら揺れる淡い桃色の珊瑚が上品な中にも可愛らしさを演出している。


「ありがとう、牛鬼」


はにかんだように笑ったその姿はまさに絶世の美しさと言うべきか─
幼子にここまで骨抜きにされている自分を心の中で嘲笑いながらも、それも悪くないかと牛鬼は思った。


「何かお礼をしなきゃね。何がいい?」

「何も要りませんよ。泡様が喜んで下さったのなら十分にございます」

「でもこんなに綺麗な物貰ったのに…。何かない?」


この律儀さは母譲り。
んー、と考える仕種をする泡を微笑ましいと思いつつ「では、」と切り出した。


「泡様のお傍にいる許可を頂きたい」

「え?」


首を傾げ、意味が分からないと言いたげな金色の瞳が牛鬼を映す。


「泡様のお心に決められた者が現れるまで、私がアナタの隣にいてもいいと─そう言って頂きたいのです」


ますます意味が分からないと複雑な色を浮かべるその娘にフ、と笑みを零した。

これはただの自己満足。
そんなことは分かっている。
この優しく、美しい子供がいつか誰かもものになってしまう事。
その"誰か"が自分ではないという事。
だからせめて、今だけは─


「泡様が好きですから、ご一緒にいたいという事ですよ」


 そう言うとたちまち笑顔になり、


「私も牛鬼が好きよ」


 無邪気な言葉が心に染みた。

揺れる銀色にキラリ輝る蝶
愛らしくも綺麗な笑顔がとても眩しくて、
もう一度「よくお似合いです」と言うと「ありがとう」と白い頬がうっすらと朱らむ。


この気持ちは親心か恋慕か
(ちょっと見せてくるわね)
(総大将にですか?)
(ううん、カラスに!)
(…………………)





end

拍手にてリク頂きました『ヒロイン幼少期 牛鬼夢』
ほのぼの?コレホノボノデスカ…?
親心:恋慕=4:6でヒロインを想う牛鬼様。
でも最強の敵はカラスちゃんというオチ(←笑

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