気まぐれプリンセス
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「はい、鴆くんに」
昼過ぎにやって来た姉様に手渡されたのは可愛らしいラッピングが施された正方形の箱。
プレゼントを貰うような覚えも特になく首を傾げる。
「何だよ急に」
「ふふふ、今日はバレンタインデーよ」
ニッコリと笑った姉様になるほど、と納得した。
人の間では毎年2月14日は女が好きな男にチョコレートを送る習慣がある。
祭好きな奴良組がそんなイベントを見逃すはずもなく、便乗してなぜか宴会が行われるのだ。
まあ、そのおかげでこうして姉様からチョコを貰える訳だが。
「ありがとな。早速開けてもいいか?」
「ええ、お口に合うといいんだけど」
「それなら大丈夫だろ」
料理上手な姉様の事だ。
食えないもの、という事はまずない。
カサカサと丁寧にされたラッピングを剥がしていくと現れたのは─
「って、何だコレェェ!!!???」
箱に入ったそれはそれは可愛い鳥形のチョコレート。
ご丁寧に顔まで書いてある。
「何ってヒヨコよ。鴆くん鳥でしょ」
いや、そうだけど!
そうなんだけど鳥って、ヒヨコって…!
「全然違うわァァ!!!!鴆とヒヨコ一緒にすんな!!!!」
「まあまあ。あんまり叫ぶと血吐いちゃうわよ」
「アンタのせいだろうがァァ!!!!」
青筋立てて怒るこっちとは逆にニコニコとする姉様に何を言ってもダメだと脱力する。
「貰ってこう言うのも何だけどよ、もっとあんだろ。トリュフとか生チョコとか。欲を言やあ中に酒が入ってんのが一番いい」
そう言うと姉様はキョトンとした顔をして、
「え?でもそれじゃあ可愛い形にならないわよ」
と素で言って下さった。
あー…そうだった。
この人は根っからの姉ちゃん気質で、俺や猩影の事を変わらず子供扱いする人なんだった。
「ただの丸や四角よりウサギや猫みたいに動物の形をしてた方が嬉しいでしょ?」
ニッコニッコ。
確かに姉様との年齢差は縮まる事はない。
でも俺だって元服を迎えた大人だ。
さすがに子供扱いは止めていただきたい。
「いや、俺はただの丸や四角でいい…。リクオだってそうだろ」
俺にこの扱いだ。
実甥のリクオだってそうに違いない。
「リクオならクマのチョコで喜んでくれたわよ」
何やってんだ、義兄弟ィィ!!!!
いや、アイツはまだ元服前だしな…それに姉ちゃん子だし仕方ねェ。
「なら、猩影は…?」
「猩影くんには車よ。やっぱり男の子ね。凄く喜んでたわ」
あンの猿息子ォォ!!!!
アホかてめぇはァァ!!!!
心の中で悪態をついていると「鴆くん」とさっきよりも些か悲しげな声色で名前を呼ばれた。
「ごめんなさい。鴆くんが喜んでくれると思ったんだけど…」
やっぱりヒヨコはないわよね、と困ったように姉様が笑う。
その笑みにツンと胸の奥が痛くなり、広がる罪悪感。
「違ッ…!」
「来年はヒヨコじゃなくてサッカーボールにするわね」
「…………………」
ニコニコと悪びれた様子の全くない笑顔に、叫ばずにはいられない。
「だから俺はもう…
子供じゃねーッッ!!!!
(大丈夫、分かってるわ)
(全ッ然分かってねェじゃねーか!!!!)
end
反抗期の弟とお姉ちゃん。笑
なぜか黒羽丸ではなく鴆くんでバレンタイン小説ですf^_^;