気まぐれプリンセス

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「(あ………)」


出席するのが二度目の総会。
目の前に出された膳に思わず声が出そうになった。


「(姉様だ…)」


にんじんがなく、肉ばかりの肉じゃが
大ぶりな魚の照り焼き
テンコ盛りのご飯
つみれしか入っていないつみれ汁
お浸しの代わりにきゅうりの漬物
そして極めつけが─


「(うさぎのリンゴ…)」


回りの膳とは明らかに違う自分もの。
こんな風に俺を子供扱いするのは一人しか心当たりがない。
昔から"姉様"と呼び慕う銀髪の美しい女性。
小さい頃と変わらぬ彼女の自分への気遣いに不思議と不快感はなく、何だか擽ったい感じがした。

─────

「姉様」


総会が終わって久しぶりの屋敷内をウロウロしていると、見つけた目当ての銀色。
慣れ親しんだ呼び名で声をかければ、こちらにニッコリと笑いかけてくれる。


「猩影くん、お疲れ様」

「姉様、今日の俺の膳作ってくれましたよね?」

「あら、よく分かったわね」


クスクスと笑うその人に「分かりますよ」と言うと嬉しそうに金の目が細められた。


「俺の事もろ子供扱いするのは姉様しかいませんから」

「ごめんなさい。そんなつもりなはかったんだけど…気を悪くしちゃった?」

「そんな訳ないです。俺、姉様に子供扱いされるの嫌だなんて思ってませんから」


困ったように微笑む姉様に慌てて首を横に振ると、大きな目をぱちくりさせ、すぐにふわりと笑った。
昔と変わらない柔らかなその笑顔に懐かしい思いが胸に広がる。


「こんな事思うの変かもしれないですけど、子供の頃に戻れたみたいになるんですよね」


小さい頃、親父にくっついて本家に来る度に真っ先に向かって行った。

「あねさまァ!」

抱き着く俺をいつも優しく受け止めて、

「いらっしゃい、猩影くん」

ふわりと柔らかく笑顔をくれる人。
数年ぶりに来た本家でも姉様が変わらず笑っていてくれた。
その事が─

「猩影くん」

嬉しくて、懐かしくて、
不覚にも泣きそうになった。


「ねぇ、猩影くん」

「はい、何ですか?」

「子供の頃に戻ったと思って、私の前では肩の力抜いてみない?」

「え………?」


言う事の意図が掴めずにいる俺に、姉様は『おいでおいで』と手招きをする。
これはきっと屈め、という事なんだろうと解釈した俺は疑問を持ちながらも素直に腰を屈めた。


「こうで…」


これでいいのか確認をとる前に、ふわっと鼻孔を擽る甘い匂いと感じる温もり。
─抱きしめられてる
突拍子もない彼女の行動に俺は首を傾げるばかり。


「姉様?」

「よく、頑張ったわね」

「!」


この人は気づいていたんだ。
親父が死んで二代目を継いで組を背負う立場になって、虚勢を張っていた自分を。
不安を押し込めて、無理矢理奮い立たせていた事を。
人一倍心配性な人だから、ずっと気にかけていてくれたのだろう。


 首に回された腕が温かくて
 頭を撫でる手つきがひどく優しくて
 なにより、その声色が─


「大丈夫。アナタにはずっと姉様がついているから」


 穏やかで、
 包み込まれるってこういう事なんだと
 安らぐってこういう事なんだと
 この人には敵わないと、そう思う


「お帰りなさい、猩影くん」


 間近でふわりと笑ったその顔が


「ただいま帰りました、姉様」


 何年経っても変わらず柔らかいから


昔は見上げていたアナタをすっかり追い越してしまったはずなのに、小さな体は俺よりもずっと大きくて。
もう少しだけ甘えていたいと、抱っこをせがむ子供のように両手を広げた。
そうすればクスクスと笑って姉様はまた抱きしめてくれるから。


「いい子いい子」


ギューっと抱き着いて、あの頃と同じ言葉を、今も変わらないこの気持ちを伝える。


「姉様大好きです」

「ふふふ、私も大好きよ」



子供心忘れる可からず。
(今日は久しぶりに一緒に寝ましょうか)
(流石にそれは…[リクオ様に殺される…])





end

猩影くん可愛いなァvVという妄想から出来た産物。笑
予想以上に気持ち悪いものに…


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