気まぐれプリンセス

□約束
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ふいに『かくれんぼ』をしたいと思った。
隠れ場所は屋敷から幾分か離れた大きな銀杏の木の上。
そこから見る景色は昔と随分変わってしまったけど、夕焼けに染まるオレンジの町並みがとても綺麗。


「ふふふ、たまには木登りもいいものね」


真っ赤な太陽が西に沈む頃には"鬼"が迎えに来るだろう。
どんな顔をするかしら、と疼くのは父譲りの悪戯心。
楽しげに鼻歌を歌い始めたその時、バサリと漆黒の羽が宙を舞った。


「こんな所で何をなさっているのですか」

「あら、見つかっちゃった」


眉間に皺を寄せ不機嫌そうなかくれんぼの鬼にクスリと微笑む。
見つかるのは日暮れの予想だったが、どうやら彼はこの遊びが得意らしい。


「落ちたらどうするのです」

「ふふ、その台詞前にも聞いた事があるわ」

「でしたら二度もやらないでいただきたい」


自分に対する過保護さまでが彼の父親に本当によく似ている。
クスクスと小さな笑い声を上げるとそれに比例して彼の眉間に皺がますます深く刻まれる。


「そんなに難しい顔してたらせっかくの男前が台無しよ」


手を伸ばして眉間にある皺を伸ばすようにしてやると、さっきまで不機嫌だった顔は林檎のように赤くなった。


「黒羽丸は可愛いわね」

「…男に可愛いは禁物です」

「でも可愛らしいわ」

「私よりも─」


ズイッと急接近した端正な顔は今や息がかかるほど間近にあって、


「泡様の方が何十倍も可愛らしいです」


唇に熱く、柔らかい感触だけを残してゆっくり離れていくとギュッと抱きしめられた。


「そのように無防備で…アナタからは目が離せません」


耳元で囁かれた言葉が何だか擽ったくて、過保護な彼の背中にソッと腕を回す。


「ならずっと目を離さないでいて?」

「勿論そのつもりです。私は泡様しか見えていませんから」

「黒羽丸ったら…」


さらっと恥ずかしい台詞を言う彼に顔が熱くなる。
それを見られないように更に抱き着けば、背中に回った逞しい腕にも力が込められた。


「それでももし、私がいなくなったら今日みたいに探しに来てね」

「当たり前です。泡様はお忘れですか?私はかくれんぼが得意だということを」


そういえば、彼ら兄弟がまだ小さかった頃、私も一緒になってよくかくれんぼをしていたっけ。
彼が鬼になるといつも私が一番先に見つかって─

緩んだ彼の腕に倣って広い背中に回していた腕を離し、見上げると優しげに細められた瑠璃色とぶつかる。


「私は空を流れる雲のように自由なアナタに惹かれたのです。泡様がどこに行かれても必ず見つけます」


真っ直ぐな彼の、真っ直ぐな言葉。
真面目で素直で責任感が強い、優しい人。
いつの間にかこんなにも頼もしく成長して、こんなにも愛しいと思うようになった。


「永年、アナタだけを見てきたのです。手放すつもりは毛頭ございません。よろしいですか?」


あァ、もう…
これ以上ドキドキさせないで。
彼にまで聞こえてしまうわ。
それでも大人の余裕を見せようと笑顔を崩さないのはちょっと悔しいから。


「ふふふ、私だって離れるつもりは全くないのよ。黒羽丸こそそれでいいの?」


悪戯っぽく笑ってみせると彼は優しげに微笑んで、


「幸福の至りにございます」


建物に隠れていく夕日に見守られながら
           ─永遠の愛を誓った



さあ、誓いのキスをしよう
(白無垢もよろしいですが、泡様はウエディングドレスもよくお似合いかと)
(?上…??)
(私にお任せください)





end

姫様は異国文化に疎いんですよ、というプチ設定。
でもバレンタインやらX'masの行事は知ってます。
毎年宴会やるので(*`艸`)


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