気まぐれプリンセス

□花咲く
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突然の訪問者に薬師一派当主の鴆は目を丸くした。


「こんばんは」

「姉様!!??」


淡い桃色の着物に綺麗な銀髪。
ニコニコと愛らしい笑顔を向けるのは紛れも無く、義兄弟の叔母であるその人。


「どうした?いきなり。ま、とりあえず上がってくれ。一人か?」

「ええ。たまには私から来るのもいいかなって思って」


悪戯に笑う泡を客間に通し、鴆はククッと笑った。
自由奔放な性格は相変わらず健在らしい。


「はい、おみやげ」

「あぁ。悪ィな…って、またたびジュースかよ!!!!」

「鴆くん好きでしょ、それ」


渡された手土産に文句を言うのもあれだが、相変わらずの子供扱いには文句の一つも言いたくなる。


「いや、好きだけどよ…ここは普通酒じゃねーか?」

「ふふふ、大丈夫。後からリクオが妖命酒を持って来るから。飲み過ぎちゃダメよ?」

「分かったよ」


後から来るという義兄弟と酒に鴆の口元に笑みが浮かぶ。
今夜は美しい姉に酌をしてもらいながら昔話に花を咲かせるのもいい、と思いながら。


「ところで姉様、出歩くのに護衛の一人も付けずに大丈夫か?」

「大丈夫よ。すぐにリクオも来るし」

「そうだけど何かと物騒…


  バンッ

「泡様!!!!」


突然勢い良く大きな音を立てて開けられた襖に二人仲良く肩が大きく揺れた。
驚愕する泡と鴆の前には武者の鎧をつけた黒髪の青年。


「「黒羽丸…?」」


肩でゼェゼェと息をする彼は相当急いできたことが伺える。
玄関先から「ちょ…!お待ち下され!!」という番頭の声が聞こえる辺り、制止を押し切って無理矢理来たのだろう。


「どうしたの?そんなに慌てて」

「どうしたの、ではありません!お一人で出歩くなど危ないにも程があります!!さ、帰りましょう」

「え?私まだ来た…「いいからいいから。姉様、今日は大人しく帰っとけ」


彼らしくない物言いと取り乱し方に泡は首を傾げるばかり。
一方鴆は一人歩きもそうだが、もう一つ彼の言葉の中に含まれた意味を悟ったらしくニヤリと笑った。


「自由奔放なお姫様を持つと苦労するな」


帰り際に黒羽丸の耳元で、彼にしか聞こえないような囁き声で告げると、眉がピクリと反応する。
しかし真顔を崩す事ないまま「失礼します」と一礼して踵を返した。
銀色を腕に抱え、空へ立った鴉を見送りながら鴆はククッと喉で笑う。
真面目な彼は気苦労が絶えないようだ─と。

───────

「黒羽丸?」


呼びかけても返事がない。
見上げた横顔は不機嫌そうに眉が顰られていて、普段の彼からは考えられない素振りだ。


「黒羽丸」


もう一度呼びかけてもやはり返事はなかったが、徐々に高度が落ちていく。
屋敷まではまだ距離があるはずなのに。
トンと優しく降ろされたところは暗く、静かな月明かりだけが辺りを照らしていた。


「黒…「泡様」


澄んだ綺麗な瑠璃色。
真剣なその表情に泡の胸がドキッと跳ねる。


「泡様が鴆様を弟のように可愛がっていることは私も重々承知です。しかし、」


悲しそうな、苦しそうな、その顔を見せまいと瑠璃色が金色から暗い地面へ移る。


「私には堪えられません。
 恋い焦がれる女性が─
 自分ではない他の男と二人になるなど、」


─嫉妬
こんな感情をぶつけるのは間違っている。
そんなこと分かっているのに…

 でも、どうしようもないくらい
         アナタが愛しいから


「黒羽丸」


凜とした大好きな声が聞こえたと思ったら、スッと白く美しい手が自分の頬を流れた。


「泡さ…」


伏せていた顔を上げると間近に迫る端正な顔立ち。
その後は全てスローモーションのようで─
動くことも喋ることも出来ずにただ、閉じられた金色を見つめ、唇に触れた柔らかさを受け止めた。


「大好きよ、黒羽丸」


ほんのり朱く色づく頬でニッコリと笑った彼女。
自分が何をされたのか、何を言われたのか、すぐには理解できず、分かった途端カァァッと音がするんじゃないかというくらい顔が真っ赤に染まった。


「な…ッ!!泡様!?こ、このようなお戯れをどこで…!!」

「冗談じゃないのよ」


 しっかりとした口調とは裏腹に


「本気なの」


 その顔は不安げで─


「…でしたら私も、本気でいきます」

「黒…」


自分から塞いだ唇は
甘く、柔らかく、アナタの味がした。


「ずっとお慕いしておりました、泡様」


驚きに見張った目は細められ、いつもの柔らかな顔で笑う。
愛しい愛しいその人に黒羽丸はもう一度口づけを送った。



ふわり、アナタが笑うたび
(そこはまるで花が咲くように)
(明るくなるから)




end

甘い?甘く仕上がってますかァァ!!??


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