気まぐれプリンセス

□揺れる
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真上に広がる空は青々としていて、黒羽丸の心とはまさに正反対だった。

「兄貴はさ、もっと自分に自信持ってもいいんじゃねぇの?」


「そんな事出来る訳ないだろう」


先刻、弟に言われたことを思い出し悲観的にポツリと呟く。
四六時中脳の大半を占めるのは銀色の姫君。
恋心を抱く相手が自分をどう思っているのだろうか、と考える事は普通なことで─
ハァと重い溜息をつく彼は今、恋に悩んでいるのだ。


「泡様は俺がこんな想いを抱いているとは知らないのだろうな」


互いが想い合っている事などバレバレなのに、この二人は全く相手の気持ちに気付いていない。
片方は真面目でヘタレ。
片方は純粋すぎる恋愛初心者。
『早くくっつけ!』と焦れているのはギャラリーだけ…。


「こんな消極的でどうする。若も応援してくださっているのだ。もっと積極的にいかなくては」


「俺はお前なら
  ─『兄』と呼んでもいいんだぜ」


数日前の夜、見廻りから帰ってきた際リクオに泡に対する想いを打ち明けた。
というよりは確認されたという方が正しい。
己の主であり、想い人の実甥から励まし(?)を頂いたのだから、こんなウジウジしてはいけないと、後ろ向きな考えを振り切るように黒羽丸は頭を横に振った。


積極的、か
もっと姫に俺をアピールするのだな
だが、具体的には何をしたら…
まずは夜の散歩に誘う、とかか?
あとは手、手を繋ぐ、とか?
いや、付き合ってもいない男女がそれは…
大事なのは心意気か
『惚れさせてやる』位の気持ちで、って…


「相手は姫様なのに何と恐れ多い…!」


自分の考えに頭を抱えた黒羽丸が思うのはやはり彼女の事。
綺麗な銀糸を靡かせ、ふわりと柔らかな笑顔をくれるあの方。
優しくて、穏やかで、優美さ溢れる自由奔放な奴良組のお姫様。


「泡様…」

「なァに?」

「!!??な……ッ!!!!泡様!!??」


独り言で呟いた言葉に本人からの返事がくるとは思わず、黒羽丸は大袈裟なほど肩を揺らした。


「そんなに驚かなくても」


黒羽丸の隣に腰掛け、泡はクスクスと笑う。
その笑顔にドキリとするも冷静を装い「いきなり現れては誰でも驚きます」と静かに反論した。


「それより、こんな所でどうされたのですか?」


夕餉の支度が始まるこの時間帯はいつもなら台所にいるはず。
庭に位置する縁側にいるのは珍しい。


「ふふ、特に理由はないの。ただね、黒羽丸の顔を見たくなって」


探しにきちゃった、と悪戯に笑う泡。
思いもしなかった答えに黒羽丸の顔に一斉に熱が集まる。


「さっきも会ったのに、すぐにまた会いたくなるの。不思議よね」


ふわりと笑顔で告げられ、これ以上ないほど早く動く心臓。
固く握りしめた拳は汗で湿っていて、緊張のしすぎで口さえ上手く動かない。


「あ、会いたくなるのは、私も同じです。
  それに、泡様がお呼び下さるなら
 例えどんなに遠くにいようとも
   私は─アナタの元に飛んで行きます」


驚いてぱちくりする金色の大きな瞳。
でもそれはすぐに柔らかな笑顔に戻る。


「なら、飛んで来なくてもいい位いつも近くにいてくれないかしら?」

「え………?」


細められたその瞳は優しげで、吸い込まれてしまいそうなほど綺麗。


「泡様…私は、」


アナタの隣にいてもいいと、
アナタの瞳に写されていると、
アナタの笑顔に包まれていると、
アナタに─想われていると、
少しだけ ほんの少しだけでいいから


「自惚れてもよろしいのでしょうか」


 ニッコリと笑った顔が本当に綺麗で


「もちろんよ」


 白い頬にうっすらと差す桃色の理由が
 俺であったらいいと、そう思う



たった一言で心は晴れ渡る
(それは他の誰でもないアナタだから)
(一挙一動にこんなにも簡単に揺れ動く)





end
黒羽丸に「自惚れても〜」と言わせたかっただけの駄文◎^∇^◎笑


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