気まぐれプリンセス

□闇
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庭にある大きな桜の木。
辺りがすっかり闇に包まれたその中、夜の姿をした彼はそこにいた。


「よう、黒羽丸」

「若」


キセルを片手に定位置である枝に座って、下降する黒羽丸が近くに来るのを待つ。
「なんでしょうか」と事務的な対応をする彼にリクオは口許を緩ませた。


「別に大した用はねぇ。ただな、最近姉さんとどうなのか聞こうと思っただけだ」


ニヤリと笑って言うリクオに黒羽丸は「なッ…!!」と焦ったような声を出した。
しかしすぐに気を取り直して真顔に戻ると、唐突な事を言い出した張本人を見据える。


「質問の意味が解りかねます。私にとって泡様は守るべきお立場にいる方です。若が思うような関係では…「好きなんだろ?」


遮られたその言葉にドキリとする。
黒羽丸の眉がピクリと反応したのをリクオは見逃さず、口許の笑みを更に大きくした。


「姉さんの前でだけだ。お前がその真面目な面、柔らかくすんのは。気づかねー方が可笑しいぜ?」


薄く笑いながら黒羽丸に告げると、今度はその顔が優しいものへと変わる。


「姉さんもそうだ。いつもニコニコ笑っちゃいるがお前にだけは違う。あの目に色んな思いが込められてんだ」


脳裏に浮かぶ美しい金色。
大きく縁取られた綺麗すぎるその瞳。
ふわりと柔らかく細められれば、此方まで釣られて微笑んでしまう。


「ですが、私は…」


想いはとうの昔に自覚していた。
優しく、温かく、穏やかなあの方をいつも見ていた。
『黒羽丸』
凜とした声に呼ばれる度心臓は早鐘を打つ。
だが、どんなにあの方を想っても自分は隣にいるべき存在ではないのだ。
─総大将ぬらりひょんの一人娘
本当は一人の女として自分が守っていきたい、そう思っているのに。


「私は、泡様を…「ウダウダ考えんな」


顔を歪める黒羽丸の考えを読んだかのようにリクオがきっぱりと言い捨てる。


「真面目なお前の考える事だ。何となく分かる。立場だとかそんなの気にしてんだろ」


図星を指され、驚くと同時に感心する。
やはりこの人はぬらりひょんの孫なのだと。
ぬらりくらりとしていてもきちんと人を見ている。
黒羽丸は小さく首を縦に振った。


「お前が何を考えようが構わねぇよ。でもな、惚れた女泣かせるような無粋な真似だけはするな」


鋭い切れ長の目が咎めるように冷たく光る。


「ま、立場だとかそんな面倒臭ェ事言う奴はここにはいねーよ。いたとしても俺が若頭の権限で黙らせてやらァ」


にやりと笑ったリクオに黒羽丸が微笑んだ。


「もう一度聞く。黒羽丸、お前は姉さんが好きか?」


真剣な眼差し。
彼女を大切に思う気持ちが口に出さなくとも伝わってくる。


「はい。お慕いしております」

「─そうか」


柔らかい笑みを浮かべた黒羽丸の言葉にリクオが満足したように呟いた。


「どうやら、お姫様のお出ましのようだぜ」


リクオの視線が屋敷の縁側へと移る。
黒羽丸も釣られて其方を見ると、そこには闇に輝く美しい銀色がいた。


「黒羽丸」


自分を見つけ、ニッコリと笑った彼女に自然と顔が綻ぶ。
主の前ではしないであろう表情をする黒羽丸にリクオはフッと笑った。


「お呼びだ、行ってやりな」


律儀に一礼をし、向けたその背中に「黒羽丸」ともう一度彼の名を呼んだ。


「俺はお前なら
  ─『兄』と呼んでもいいんだぜ」


涼やかに笑って告げたられた言葉を瞬時には理解できず、脳内で何度か繰り返す。
そしてその意味に気づいた瞬間、顔を真っ赤にし「若ッ!」と声を上げたのだった。



家族枠の許可を得ました!
(黒羽丸に独り占めされる前に)
(今の内、たんと姉さんに甘えておこう)





end

原作に忠実に黒羽丸を描こうとして挫折…
ヒロイン今回出番は彼らの心の中だけ( ̄∇ ̄;;)


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