気まぐれプリンセス
□唄
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「日の光があれ程似合う妖を、お前さんは見たことがあるかい?」
庭で小妖怪達と遊ぶ泡様を縁側で眺めていた二代目がふと私に言った。
その目がとても優しげで、愛おしいという想いがひしひしと伝わってくる。
「いえ、私も見たことがありません」
フッと二代目が笑うのが分かった。
まるたけえべすにおしおいけ
あねさんろっかくたこにしき
「母上に教えていただいたの」
以前、にっこりと笑ってそう言ったアナタ。
今はその唄を唄いながら太陽の下で無邪気に笑っている。
「俺達が選んだのは"妖"の道。あんなナリだ、アイツはこれからも大勢の妖怪共に狙われる」
妖怪の中でも一、二を争うと噂されるほどの美貌を持つ泡様。
それに加え、大妖怪ぬらりひょんの娘ときたら狙われないほうがおかしい。
「だがな首無。俺はアイツを守ってやれるが、幸せにはできねぇ」
分かるかい、そう目で問いかける二代目に私はゆっくりと頷いた。
─双子の兄妹
兄は妹を守る事はできても、女としての幸せを作ってやる事はできない。
「アイツを"道具"として嫁にやるつもりなんざ鼻からねぇさ。アイツを、泡を"泡"として好いてる奴しか俺は認めねぇ。首無、お前さんとかな」
「!!??にっ…!!ききき気づいて…!?」
「まぁな」
組に入った時からずっと想ってきた。
たなびく銀髪
柔らかな印象を与える大きな金の瞳
そして、なによりも
優しく温かなその笑顔
恋に落ちたのは本当に一瞬だった。
その想いを誰にも気付かれないようにとひたむきに隠していたつもりだったが、まさか実の兄にバレていたとは思いもしなかった。
予想外の事に大袈裟すぎるほどのリアクションをしてしまった私に二代目はクツクツと笑った。
「なぁに別に責めたりしねぇさ。ただなお前さんがあまりにも行動に移さねぇもんだから、ちぃとからかっただけだ」
「女性に強要するのは好きではありませんので」
ぬらりくらりとしているのに本当に人をよく見ている方だと改めて思う。
私がこの想いを泡様に伝える気がないということもとっくに見抜いているだろうに、人が悪いというか。
「首無、アイツの事よろしく頼むぜ」
そう、優しげに微笑んだあの方の顔を私は一生忘れる事はないだろう。
「──御意」
──────
しあやぶったかまつまんごじょう
せったちゃらちゃらうおのたな
空が夕闇に染まり一番星が煌めく時刻、綺麗な歌声が静かな庭に響く。
縁側に腰かける彼女の足元には体を丸くしてじゃれつくすねこすり。
「泡様」
「ん?どうしたの、首無」
「だいぶ暗くなってきました。中に入られてはいかがですか?」
「ええ、ありがとう。でももう少しだけここにいるわ」
空を見上げた彼女の横顔が優しく微笑む。
風が冷たくなってきた。
このままでは風邪をひいてしまわれると、自分の羽織りをその細い肩にかければ「ありがとう」とにっこり笑ってくださった。
ろくじょうしっちょうとおりすぎ
はっちょうこえればとおりみち
くじょうおおじでとどめさす
闇に映えるその銀髪は変わらず美しくて。
でもやっぱりアナタには、月が輝く闇よりも太陽が照る光の方が似合っているとそう思うのです。
金色の瞳が愛おしげに細められた時、空から闇よりも黒い羽を持ったアナタの待ち人が舞い降りるのでしょうね。
想いを伝えるつもりはない。
ただ、アナタのその優しい唄が
悲しみに染まらないように
(私はそう、願うだけです)
(それがあの方との"約束"ですから)
end
え…?なんだこの駄文は………