気まぐれプリンセス

□鳥
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 四百年生きている妖怪だろうが
 今を煌めく女子高生だろうが
 『女の子は"可愛い物"が好き』
 それはいつの世も変わらない事だと思う。

───────

動物は好き
猫も犬もウサギも河童も
あら?河童は違うかしら?
小さい頃からすねこすりは私の遊び相手
本当に可愛いらしい大好きな妖怪
でもやっぱり、一番のお気に入りは─


「あのォ…泡様…」

「ん?なァに、鴉天狗」

「あまり見られると食べにくいのですが…」


泡の目の前には小さな箸を使って食事をとる鴉天狗。
自分達が使うよりもずっと小さな膳を挟んで彼はそこにいる。


「私の事は気にしなくていいのよ」

「いえ…あの………」


隣(長男)からの視線が物凄く痛いのですが…と呟くがニコニコと笑う泡に鴉天狗の呟きは聞こえていない。


「おいしい?」

「はい……とても………」


父譲りの悪戯好きは昔から健在で
総大将の子供だからか
悪戯をしても
大して怒る大人など殆どいなかった
でもこの鴉だけは別
兄上と二人、
悪戯を仕掛けてはよく怒られたもの
『ちゃんと叱ってくれる大人』
それは甥であるリクオに対しても同じ事
過保護すぎるところもあるけれど
それが彼なりの愛情表現


「…泡様……」

「ん?」

「一体どうされましたか…?」


痛いほどの視線(長男からの)を感じながらでは食べた気がとてもじゃないがしない。
賑やかに他の妖怪達が食事をとる空間で、この場だけ異様な空気が漂っているという事を泡は気づいてはいないだろう。


「どうもしないわよ?」

「いや…でしたらどうか自分のお席で…」

「カラスの傍がいいの」


ニコニコと愛らしい笑みを向けられては首を横に振ることなどできない。
だが、隣(しつこいようだが長男)の視線は物凄く痛いのだ。


「泡様もお腹が空かれたのでは…」

「大丈夫よ」


正座して膳をとる様が何とも可愛いらしい
目つきは鋭いし
口煩いところもあるけれど
それも愛嬌


「!泡様、総大将がお呼びですぞ」

「今はカラスが優先」


上座から「オーイ、泡」とぬらりひょんが娘を呼ぶのを、これ幸いとばかりに鴉天狗が食いつくが見事一刀両断されてしまった。
段々と鋭さが増す息子からの視線に居た堪れなくなる小さな鴉。


「本当にどうされたのですか…泡様…」

「どうもしないわ」


幼い頃の記憶の中の鴉はまだ長身で
妖怪変化した黒羽丸によく似てる
彼の子供達は皆素直で優しい子
父である鴉天狗を見て
立派に成長したのだと分かる
その中でも、特に真面目な息子に
私が想いを寄せていると言ったら
鴉はどんな顔をするかしら?


「ふふ、」

「?どうされましたか?」


唐突に小さな笑いを零した泡に鴉天狗が怪訝そうな顔をする。
それすら泡には可愛いらしく思えて─愛護欲が掻き立てられた。


「ねェ、カラス


ギュッてしてもいい?


バキッ
賑やかなはずの部屋に(隣の人の)箸の折れる音が異様に大きく響いた、そんなある日の夕食時。


(奴も苦労するの。黒羽丸なだけに)
(全然面白くないよ、じいちゃん)
(『一番の敵は身内にあり』とはよく言ったもんじゃ)
(姉さんの可愛いの基準が分からない…)





end

鴉ってめっさ可愛いよねって話。
最後は堪忍袋の緒が切れた黒羽丸さんの箸が折られました。笑


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