気まぐれプリンセス

□To 生真面目純情ボーイ
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いつものように浮世絵町の巡回を終え、違反者の多さにクタクタになり本家に戻ると目を疑うような有り得ない光景を目の当たりにした。


「おー帰ったか息子よ」

「お帰りなさい黒羽丸」


いつものように親父である鴉天狗に報告して、いつものように風呂に入って、いつものように床に着くはずだったこの時間は脆くも崩れ去った。
目の前にいるミニマム鴉と長年想いを寄せてきた当家の姫君によって。


「親父…何をしている」

「耳かきじゃ。泡様がやってくださるとおっしゃってな」


そう言った親父は只今泡様の膝枕を絶賛堪能中。
想い人の膝を自分以外の男、例え本当の父親にだろうが独占されるのは腹立たしい。


「ふふ、父上にして差し上げてるのをカラスが羨ましそうに見ていたのよ」

「いやーささ美はやってくれんので」

「年頃の女の子だもの」


俺の忌ま忌まし気な視線に気付く事なくふふふ、あははと談笑を続ける二人(小さい鴉)にこめかみがひくつくのを感じた。


「親父、達磨様が探していた」

「木魚達磨殿が?はて、何用じゃ?」


知らん。
実際呼んでなどいないのだから。


「泡様ありがとうございました。心優しく成長してくださった事にこのカラス、感激ですぞ」

「ふふ、大袈裟よ。いつもお世話になっているんだし、ね?」

「泡様…!!」


感激の余り涙を流す親父を泡様はニコニコと愛らしい笑顔で見守る。
それがまた何とも癪に障る。


「巡回は特に異常はなかった。早く行ったほうがいいんじゃないか?」

「そうじゃな。では泡様、わしはこれで失礼します」

「ええ」


苛立つ気持ちをなんとか抑え、冷静を装いそう言えば親父は泡様に頭を下げすんなり部屋を出ていった。
その事に息を吐くと、ふと低い位置からの視線を感じ、目線をまた先程と同じ所に戻す。
するとこちらをジッと見据える金色の瞳と視線がかちあった。

綺麗すぎるほどの金の目。
ドキリと心臓が跳ね上がり、脈拍が一気に上がる。
嘘がばれたのだろうかという焦燥感と今この目には自分しか写っていないのだという優越感が混じり合う。


「黒羽丸」


ふいに名前を呼ばれ慌てて「はい」と返事をすると、いつもの優しい笑顔で姫は笑う。
ドクンと心臓が脈打った。


「どうぞ」

「…………………え?」


『どうぞ』と言い、泡様はポンポンと己の膝を叩く。
そこは確かについさっきまで親父が寝ていた所で─


「大分疲れた顔をしてるから私のでよければ黒羽丸もどう?」


ニコニコと優しい笑み。
漸く言われた事を理解した俺は途端に顔に熱が集まるのを感じた。


「い、いえ。姫のお手を煩わせる訳にはいきませんので」

「ふふ、大丈夫よ。でも黒羽丸も男の子。こういうのは私より好きな子にやってもらいたいものよね」

「!そんな事はございません!」


思わず上げた声は思ったより大きく口から出て、驚いたように姫は大きな金色の目を瞬ぐ。


「姫の膝枕でしたら全世界の妖怪が喜びます」


そう言うと、それこそ全世界の妖怪が見惚れるような顔で姫が笑った。


「なら黒羽丸も喜んでくれるかしら?」

「─!勿論でございます。ですが先程も申し上げたように姫のお手を…「命令」


ニッコリと極上の笑みでそう言われてはもう逆らえない。
意を決し「失礼します」と早鐘を打つ心臓をなんとか抑え恐る恐る姫の膝に頭を置いた。

柔らかい膝
鼻孔を擽る甘い香り

意識を反らそうと思えば思うほど逆に意識してしまう。
今の俺はこの上なく真っ赤な顔をしているのだろうなと心の中で苦笑を零した。


「ねぇ黒羽丸」

「はい、何でしょうか」


赤い顔を見られたくなくて失礼だとは思ったが泡様の方を見ずに返事を返す。
その事を気にするでもなく泡様はふわりと俺の髪を撫でながら言葉を続けた。


「今日の夕餉はどうだった?」

「煮物ですか?とても美味しく頂きました」

「ふふ、私の自信作なの」

「姫は本当に料理がお上手ですね」

「あら、ありがとう。今度は洋食も作ってみようかしら」

「姫の料理でしたら何でも美味しゅうございます」

「褒めすぎよ」


クスクスと頭上で小さく笑う声にドキドキは増すばかりだが、不思議と緊張は幾つか解れてきた。

その後も続く取り留めのない話。
今日は毛倡妓とどんな話をしたとか、首無のリクオ様への過保護ぶりが親父に似てきたとか。

泡様が作り出す穏やかな空間
凛とした心地好い声
ふわりふわり優しく撫でられる髪

いつしか眠りに誘われるように段々と瞼が重くなっていった。
寝てはいけないと思いながらも眠気には勝てそうにもない。
そんな俺の様子に気付いたのか泡様がクスリと笑った。


「おやすみなさい」


姫の前で、まして膝枕で寝るなどそんな恐れ多い事できません、と反論の言葉は口から出ることなく、ゆっくりと完全に瞼が降りていく。


「ありがとう。いつもあの子を守ってくれて」


眠りに落ちる直前、そんな言葉を聞いた気がした。



休息と感謝の言葉をアナタに。
(ただい…って姫!!??と兄貴ィ!!??)
(ふふ、すっかり寝ちゃったの)
(え、いや、え?)
(とさか丸、布団に運ぶの手伝ってくれる?)
(あ、はい)





end

黒羽丸のキャラが分からん。爆


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