Short Story

□雪女
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例えば、夜仕事中に男に絡まれている女を助けたとしよう。
そして、その女の手が人肌とは思えないくらい冷たかったとしよう。
さらに、


「危ない所を助けていただきありがとうございます。私、雪女と申す者ですゥ」


なんて言い出したとしよう。
さあ、どうする?

  戦う
  アイテム
  ゴリラ召喚
 →逃げる

コマンド連打じゃボケェェェ!!!!!!
華麗なスタートダッシュを決め、全速力で停めておいたパトカーに乗り込みアクセルを踏む。

落ち着け落ち着け
この世にゆゆゆ幽霊なんざいる訳ねーんだ。
アレだアレ。映画の撮影。
だってあの人テレビで見た事あるし。
うん、ある。絶対ある。


「わァ、これが"じどーしゃ"という物ですか。初めて乗りましたー」

「Σ!!!!!!!!」


いないはずの助手席から聞こえたソプラノにバッと隣を見れば、さっきの女がそこに座っていた。
暖房をかけてるはずなのに車内が異常な位寒いのは気のせいだろうか。


「あのォ、この風みたいなやつ何とかしていただけますか?私溶けてしまいますゥ」


いやいやいやいやいや、
何とかする前に君何とかしちゃったよね?
指先からビームみたいの出して凍らせちゃったよね?
え?つーかコレ氷?凍ってんの?


「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!!!」


最高潮に達した恐怖から女を車外に蹴り下ろし、その後のことは無我夢中すぎてどうやって屯所に戻ってきたのかも覚えていない。

─────

「………何だったんだあれは…」


翌朝、目が覚めて一番に視界に映った屯所の見慣れた天井にホッと安堵の息をはいた。

昨日のは夢だ夢だ
総悟の始末書のせいで疲れすぎて嫌な夢を見ちまっただけだ

何度も何度も自分自身に言い聞かせ、いつもよりも少し早いが黒の隊服に身を包み、食堂へと向かっ………


「おはようございますゥ。朝ご飯にしますか?氷漬けになりますか?それともア・タ・シ?」


キャッ、言っちゃった!じゃねーよ!!!!
何でいんのお前ェェェェ!!??
え?こいつが今現在ここにいるって事は昨日のは夢じゃねーのか?
え?て事はこいつ本物の………


「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!!!」


屯所中に聞こえるであろう悲鳴を上げ、逃げ出そうとした時「なんだなんだ」と食堂から隊士達がわらわら出てくる。


「どうしたんでィ土方さん。ついに頭沸いちまったんですかィ?」

「おはようトシ!朝から元気だな」

「あ、副長。マヨネーズならちゃんと買って枕元に置いておきましたからね」

「んな呑気な事言ってんじゃねェェ!!!!何でコイツがここにいんだよ!!!!おかしいだろ明らかに!不法侵入だからコレ!!」


事の状況を全く分かっていない部下達(+ペット)を怒鳴り付け、招かねざる客をビシッと指差す、が─


「何言ってんでィ。失礼な野郎でさァ。すいやせんね雪女さん、こんなバカな奴で」

「いえいえ、いいんですよォ。そんな所も凍り漬けにしちゃう位好きなんですから」

「いやァ朝から熱々だな。こんな綺麗な奥さんがいて羨ましい限りだぞ、トシ」

「やだ、そんなゴリラさんたらァ。私溶けてなくなってしまいそうですゥ」

「ははは、雪女さんて本当に面白い方ですね。溶けてなくなる訳ないじゃないですか」

「だから本当なんですよォ。私雪で出来てるんですゥ」


あはははは、って何談笑してんだァァァ!!!!
バカか!?ここはバカが住む土地なのか!!??
ツッコミ所多過ぎてツッコミきれねーよ!!!!
誰か万事屋んとこのメガネ連れて来いゴラァァア!!!!


「あ、ヒジーさん」

「何だその呼び名は。土方の『ひじ』なのか?そうなのか?」

「今朝は私が朝食を作ってみたんですゥ。お口に合うといいんですけど」

「え?無視?つーかお前何で勝手に屯所の台所使ってんの?」

「はい、召し上がれ」


ツッコミを総無視され、ポンと手の平に乗せられたのは氷の塊。


「おにぎりですゥ。ちょっと塩が多かったかも。テヘッ」

「オィィイイ!!!!どこがおにぎり!!??塩云々の問題じゃねーよ!!!!」

「やっぱり梅が一番ですよねェ。私と一緒ですゥ。気が合いますね」


成り立たない会話にブチ切れまで後5秒とカウントが始まるというところで「お、そうだトシ」と呑気な近藤さんの声に阻まれる。


「んだよ!」

「雪女さんの部屋はお前と一緒でいいよな。そういう仲でもあるんだし」

「…………………………は?」


そういう仲ってどういう仲だよ。
いやいや、ないない。
有り得ないから。
え?嘘だよね?嘘なんだろ?


「本当にこんな男でいいんですかィ?雪女さん」

「そんな!もちろんですゥ!私、あんなに熱い夜を過ごしたのは初めてで…」

「うわー…流石副長。手早いですね」

「"じどうしゃ"というのも初めてで…」

「ちょッ!?トシィィ!!??パトカーでヤっちゃったの!!??」

「本当に熱かったですゥ」

「オイィィィイイ!!!!紛らわしい事言ってんじゃねーよ!!!!大体"熱い"じゃなくて"暑い"だろーがァァア!!!!」


一番招いてはいけない誤解を見事に植え付けて花まで咲かしてくれやがった女をギロリと睨みつける。
途端ヒシヒシと刺さる冷たい視線。


「責任逃れですかィ。最低でさァ。死ねよ」

「見損ないましたよ副長。そんな人だとは思いませんでした」

「トシ、男なら言い訳も弁解もせずにただ一言『幸せにする』って言うもんだと俺は思うがな」

「だから違「いいんです、皆さん」


責められる中、この数十分の間ですっかり耳慣れしてしまった声が辺りに響く。
白い着物の前で拳をギュッと握りしめ、顔を俯かせるその女。
あれ?これってお決まりのパターンじゃね?
俺悪人決定じゃね?


「私が勝手にあの女を憎んでいて…彼は、彼は悪くないんです!悪いのは全てこの私なんです!ですから役人様、この人は、この人だけは…!」


ヨヨヨヨヨ…と着物の袖で顔を書くしながら泣き崩れていくコイツに俺はどこからツッコめばいい?
つーか『あの女』って誰!!??
今やってる昼ドラ丸々パクった台詞じゃねーかァァ!!!!
ねえ!本当止めてくんない!?
コイツらバカだから信じちゃうの!!
人の二倍も三倍もおつむ弱い奴ばっかなの!!


「もう一生俺に話しかけないで下せェ」

「最低です。人じゃありませんね」

「いつからそんなになっちまったんだよ…トシ」


ほらァァ!!!!
信じちまったじゃねェか!!!!!!
ホント帰れよお前!
マヨネーズやるから!マジで。


「迷惑をかけて申し訳ありません。私もそろそろ在るべき所へ帰りますゥ。でも最後に一つだけ」

「何だよ…」


随分あっさりした引き際だなオイ!!!!とはツッコまず、帰ってくれると言うのならさっさと帰そうと、ゲッソリしながら聞き返した。
すると奴はニッコリと。
もう本当に満面の、輝くような素晴らしい笑顔で─


「一回だけ氷漬けになりましょう」

「なるかボケェェ!!!!」


氷中の貴方を一生アイスわ(いいじゃないかトシ、一回位)
(アホかテメェェ!!!!)

─雪女は一途なのよ



end

銀魂/ホラー→ギャグ化 DRY HORROR様へ提出

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