水色マシェリ
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4月22日は真選組の花見。
それは一体誰がいつ決めたのだろうか。
桜の見頃を迎えた江戸の公園にて、毎年同じ日、同じ木の下、今年もまた、江戸を守る黒の集団がそこにいた。
「あくまで業務の一環だ。羽目は外しすぎんな」
「「「「「……………はーい」」」」」
「間延びした返事してんじゃねェ。腹に力入れて魂から思いっきり返事しろや」
「「「「「……………はーい」」」」」
「よし山崎。まずてめぇから介錯してやる」
「えェェェェ!!!???俺ぇゥえ!!!!????」
ぎゃぁぁああ、断末魔の叫びを聞きながら決して声には出さず、山崎の冥福を祈るむさ苦しい男達。
そんな中、
「は、は、はぶげっしぶッッ!!!!」
奇妙なくしゃみとズズズと鼻を啜る音。
真選組の紅一点から発せられた音に便乗するかのように沖田を始めとする隊士達が遂に口を開いた。
「何で雪降ってんのに花見すんスか副長!!」
「死ね土方」
「別に今日じゃなくてもいいでしょ!!??」
「死ね土方」
「早く帰りましょう!!風邪ひいっちまう!!」
「死ね土方」
ブーブーブーブー、ブーイング(+若干一名からの暴言)の嵐に気の長い方では決して、決してない土方は毎度の如くブチ切れた。
「うるせぇぇぇえぅ!!!!!!」
ズガシャァーン、と怒りのままに蹴り倒された一部の隊士の犠牲は無駄になる事なく、打って変わって辺りはシンと静かになる。
もうそれは警察の面じゃないですよヤーさんですよ、という位瞳孔が開ききった目で睨みつける男前に、素直に従う以外の選択肢は彼らに残っていない。
「てめーら、俺が明日から一週間の長期出張だって事は知ってんな?あ゙あ゙?」
「「「「「勿論です」」」」」
「へェ、マジですかィ。俺初耳。出張ついでに死んできてくれてもいいんですぜ。土産はテメーの首で」
「トシさん酷いです!補佐官の私に言わないなんて…あ、鼻水。山崎さーんティッシュ下さい!」
空気読めない馬鹿が約二名。
斎藤と永倉、両隊長が慌てて子供二人の口を手で塞ぐが、時既に遅し。
ピキリと青筋が一気に三つは増えた土方の怒鳴り声が静まり返った雪降る春の公園内に轟いた。
「朝礼会議で言っただろォがぁぁああ!!!!!!しかも一ヶ月も前のやつゥゥ!!!!」
「俺寝てたんで」
「昨日の夕飯も思い出せませんのに一ヶ月も前の事なんて問題外です」
「もっと悪びれろやお前ら!!!!何そんな堂々と答えてんの!!??」
「「侍だから」」
「上等だコラァ!!!!刀抜けィ!!!!」
ギラつく目で抜刀する土方を原田や山崎が羽交い締めして懸命に動きを封じる。
ギャァァ副長落ち着いてー!!、何でィ土方さんたら大人気ねェ、止めろォ沖田ーこれ以上挑発するなァ!、大丈夫ですいつもの光景です、止めるこっちの身にもなってくださいよ!!つーか何弁当広げてんだアンタぁぁ!!!!
「うるさいぞお前ら!!!!」
ピタッ。
まさに鶴の一声。
ギャーギャーギャーギャー、近所迷惑上等!と言わんばかりに騒いでいた集団がまるで嘘のように大人しくなった。
「遠足にはしゃぐ小学生かお前らは!いくら回りに花見客がいないからって騒ぎすぎだから!!さては楽しみすぎて寝れなかったんだな?寝不足のハイテンションのまま来ちゃったんだな?全く仕様がない奴らだ。じゃあ、ほら、ここにシート敷いて」
さすがは一癖も二癖もある武士達を纏め上げる真選組局長。
しらぁっと白い目を向けられても動じない精神はさすがだ。
何せもう恰好が恰好だから、顔が醜い位に腫れ上がって痛々しいから。
聞かなくとも分かるそれまでの経緯。
ここにいる誰しもの頭には、ある意味被害者である意味加害者な一人の女性の顔が思い浮かんだ。
「美月ィ、総悟ォ、こっち来てシート敷き手伝いなさーい」
「近藤さん…その前にアンタは傷の手当してくれ…」
すっかり戦意喪失された副長が重い溜息をつく中、毎年恒例真選組春の行事、花見は開催された。
ドンチャンがしゃがしゃ。
しんしんと粉雪が降り続けるにも関わらず、飲めや歌えの宴会を行う面々には酒の勢いもあってか寒さを微塵も忘れ、すっかり出来上がっている者が多々見られる。
「近藤さん」
「よォ!美月!飲んでるか!?」
ガハハハハ、と機嫌良く豪快に笑う近藤もその一人。
手酌で酒を進めるその横に座り、空いた盃に傍らの酒瓶を傾けると、ニカッと人の良い笑みを美月に向ける。
「お?美月が酌してくれんのか?」
「はい。今日は宴ですから」
「そうかそうか。美月も酌をするような歳になったか。そうだなァ、もう十八だもんな」
注がれた酒をクイッと呷ると、優しさを宿した黒い眼が頭上の桜を見上げた。
ひらひらと舞い落ちる桜の花弁。
枝に積もった冷たい雪が音を立てて地面に落ちた。
「桜に積もる雪。中々拝めるもんじゃねー。異常気象もたまにゃいいもん見せてくれる」
「ですね。とても綺麗です」
ピンクと白の美しい色彩。
春を追いかけ、気まぐれにまたやって来た冬は思いがけぬ贈り物を残していってくれた。
「雪はよ、桜に恋をしてんのかもな」
「?─恋?雪が、ですか?」
「ああ。どうしても会いたくて季節っつー垣根さえも飛び越してっちまいたくなる位に好いてる」
春夏秋冬、区切られた季節。
決められた己の世界から飛び出して、愛しい人の元へ。
すぐに溶けてしまうと分かっていても、それでも傍に─冷たい雪の綺麗な恋。
「美月にも、いつかそんな奴が出来んだろうな」
「私、近藤さん置いてどこにも行きません」
「ハハハ、嬉しいなァ」
「…信じてませんね」
「いいんだよ。お前はお前の信じた道を行きなさい」
わしゃわしゃと水色の髪を乱暴に撫でると、不満全開と言わんばかりの丸い目が近藤を見上げた。
「ですから…「ハハハ、よーし飲むぞォ!」
まだ見ぬ、桜の君に告ぐ
(幸せにしてやってくれ)
(それと、一発殴らせろ)
─それは近い未来を予言した
end
季節感?何それ?おいしいの?笑