水色マシェリ
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夕食も終えた。
風呂にも入った。
今日は問題児の上も下もいつもより大人しくしてたおかげで仕事もはかどった。
一日に思い残す事はない。
さあ、心置きなく寝よう!と土方が布団に横になったその刹那。
「あー…疲
ドドドド バンッ ベキッ
……れた」
「こんばんはです!トシさん!!」
「…オイ、美月……俺ゃこれから寝っとこなんだよ。良い子だから歯磨いてお前もさっさと寝ろ」
補佐官の壮絶な登場で見るも無惨な姿になった障子の事などお構いなし。
ついでに土方の言葉も見事スルーと言ったように被っていた布団を剥ぎ取られた。
「オイオイ随分積極的だな」
「呑気な事を言ってる場合ではありません!早く来て下さい!緊急事態発生です!!」
「あー、分かった分かった。すぐ行ぐぇっ…!!」
彼女の緊急事態は緊急事態じゃないから、などと余裕かましていた土方の寝巻の首元をむんずと掴み、ズルズルと容赦なく引きずっていく。
夜兎という事を少しでも忘れると本人に悪意はなくとも身を持って思い知らされるのだ。
「苦ッぐるぐるじ!!!!美月さんんん!!??ま、待てッ!ちゃんと歩かせてくれるゥゥ!!!!」
「大丈夫です。私がきちんと目的地までトシさんをお運び致します」
「何が大丈夫ゥゥゥ!!??目的地着く前にトシさん窒息死しそうだからね!!??」
「あはは、トシさんのナイトジョークはいつも面白いですね」
「何それェェ!!!!勝手に記憶捏造すんの止めてくんない!!??」
「あ!」
短い声を上げて突然パッと手を離すものだから、土方の頭は重力に逆らう事なく床とご対面する。
ゴンッと鈍い音も「ふごッ!!!!」と蛙を潰したような声も全部無視して美月はにっこりと笑った。
「見て下さい、トシさん!」
「俺はお前に実状を見てほしい」
痛む箇所を摩りながら起き上がり、彼女が指差す空を仰ぎ見る。
「ほォ……」
「ね、凄いですよね」
夜空に瞬くたくさんの星屑。
キラリ流れては消える小さな光。
そういえばテレビで流星群が近づいていると言っていた。
見事なもんだな、と土方が呟けば見事なもんですねと隣からおうむ返し。
「願い事でもしとけ。一つくれー叶うかもしんねェぞ」
─こんだけ流れてりゃ
土方の言葉にパチパチと瞬きをした後美月は小さく笑った。
「トシさんは案外ロマンチストです」
「案外は余計だ。男なんざ皆ロマンで出来た馬鹿野郎なんだよ」
いつもの癖で胸ポケットの煙草を探す仕種をするが、そういや寝巻の単だったとさ迷わせていた右手を大人しく下ろす。
隣の美月をチラリと盗み見るとその水色の目は真上に広がる黒い空間を映していた。
「知っていますか?」
「あ?」
「人って死んだらお星様になるんですよ」
「…テメーの方がロマンチストじゃねーか」
「人は常にロマンを追い求める旅人です」
だから、と続く美月の言葉。
星空を映しているはずなのにどこか遠い所を見つめるその横顔。
憂いを帯びたその娘がいつもよりも大人びて、儚ささえも覚えるほど頼りなく見えた。
「私が流れ星に願い事をしてもそれは叶いませんよ。きっと叶えてはくれません。自分を殺した相手の願いなんて」
成人にも満たない子供にたくさんのものを背負わせている。
色んなもん取りこぼしても、振り返るなと前に進めと──どんなにその小さな背にいっぱいになっても美月も沖田もしゃんと真っ直ぐ立っている。
少しくらい甘えてもいいのに、泣いてもいいのに、意地っ張りな子供は決して弱みを見せない。
だから、こんな時こそ…─。
ポンポンと水色の頭を撫でてやる。
真ん丸の瞳が隣の黒を映した事に満足して、土方は小さく笑った。
「星なんぞに願掛けしなくてもお前の願いは俺が叶えてやる」
驚いたように大きな目を瞬いた後ににっこりと嬉しそうに、
「─はいっ!」
年相応に無邪気に笑った。
おほしさま墜落記念
(お前の我が儘も甘えも)
(誰にもくれてやるつもりはねーよ)
「私ファミレスのメニュー全制覇したいです!明日」
「…ねえ、給料入ってからでもいい?」
「あと回らないお寿司屋さんに行きたいです!明日」
「聞いてた!?俺の話聞いてた!?」
─だから安心して我が儘を言えばいい
end
土方さんは美月ちゃんが大好き!