水色マシェリ
□混ぜて
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「淡島達と先に行ってろ。俺は後から行く」
「はい、分かりました」
と、素直に返事をしたのはつい二十分程前。
ぼーっと淡島と雨造の実戦前の準備運動を眺めながら、まだかなまだかなと美月はイタクを待っていた。
くるくるくるくる、傘を回しながら手持ち無沙汰をやり過ごしていると、感じた気配。
ぱあっと顔が明るくなり、音もなく木から降り立った待ち人の元へ向かう。
「ど、どうされたんですか!?」
イタクさん、そう言って駆け寄った彼の左頬にそれはそれは見事な赤い紅葉。
綺麗に付いた手形に思わず声を上げると如何にも不機嫌そうに重い口を開いた。
「………別に、何でもねぇ」
明らかに何かがあったその顔を淡島達に貫き通せるはずもなく、渋々白状したイタクに、あっはっはっはっは!と大きな笑い声が向けられた。
「女振ってビンタ喰らったってお前、あー腹痛ぇ」
「刈られてぇのか淡島」
「キヒヒ、イタクーはモテモテだな」
「その口の悪さがなけりゃあ更にモテんだけどなァ」
面白がる三人をギロリと睨みつけるが効果は全くない。
川で濡らした手ぬぐいを持った美月がイタクに駆け寄り、頬を冷やそうとするが「……自分でやる」と言って無愛想に手ぬぐいを受け取った。
「何怒ってんだよ。やってもらえばいいじゃねーか。あ、お前アレか?美月には聞かれたくなかったとかか?」
「バッ…!!そんなんでねぇ!」
「え!?なぜですかイタクさん!?隠し事なんて悲しいです!私とイタクさんの仲じゃないですか!!」
「お前は喋んな!ややこしくなんだろ!」
「ほォ…美月とイタクの仲、ねぇ」
「変に勘繰んな!!何もねぇ!!」
ニヤニヤ笑う淡島に怒鳴るも、照れんな照れんなと照れ隠しに捉えられ全く本気にされない。
こめかみの青筋がひくつきそうなイタクを、ここでレラ・マキリを使われては敵わないと雨造が「仲が良いって事だよな、な?」と宥めすかす。
「しかし、振っただけで張り手なんざ随分気の強ェ女だなァ」
土彦の言葉に、確かにと頷く淡島と雨造。
どーせイタクが何か言ったんだろ、と淡島が言えば一斉にイタクに視線が集まる。
きょとんとする水色の瞳に、ばつが悪くなり舌打ちをすると、不機嫌丸出しでポツリと呟いた。
「……面倒臭ェって言った」
「「「「………………………」」」」
うわァ…そりゃ叩かれるわ、明らかにお前が悪い、最低だ女の敵。
口々に言いたい放題の三人に、うるせェと睨みつける。
女なんざ我が儘で疲れるだけだ、仏頂面が更に濃くなったイタクに呆れの視線が刺さる中「そうでしょうか?」とソプラノが響いた。
「女の子の我が儘はわらび餅の黒蜜みたいなものです。ないと味気無い、それがあるから甘いんです」
「………ンだよそれ」
おー!美月良い事言うなァ!とジト目で見るイタクを余所に淡島がくしゃりと水色の髪を撫でる。
僅かに引き攣ったイタクの口元を見逃さなかった淡島は愉しそうに笑うと、美月って結構経験豊富?と命知らずな質問を投げ掛けた。
「いえ、全く。偉そうに言って何なんですが全部受け売りなんです」
「ほォ…随分な二枚目がいんだなー」
感心する土彦の横ではイタクが面白くなさそうに外方を向いている。
美月が絡むと面白ェ位分かりやすいよな、と昔馴染みの変化を間近で見る淡島は至極機嫌が良い。
「それに、」
「「「それに?」」」
「男の子も女の子も関係ありません。好きな人の我が儘って聞いてあげたくなるものなんですよ」
成る程成る程、と妙に納得する雨造はとりあえず置いておき…。
にっこりと笑ってそう告げた美月に、なら…と淡島は続ける。
「美月の我が儘はイタクが聞いてくれんぜ」
「へ?」
「ッ!!??」
「なー、イタクゥ」
「ばッ…!ンな訳…………」
斜め下からの視線。
不自然に途切れた台詞に不思議そうに首を傾げる様に、カッと顔を赤くすると見られぬように慌てて顔を背けた。
「な、内容によっちゃ聞いてやらねー事もねェ」
「え………?」
素直じゃねーの、ちゃんと言やァいいのに、イタクにしちゃあ素直になった方じゃね?、うっせェぞお前ら!!
目の前の騒ぎを眺めながら、先程言われた事が頭の中で何度も何度もリピートされる。
自然と弧を描く口元と胸を占める淡い想い。
目元をほんのり色付かせ、美月が監視役の彼の名を呼べば、鋭い金色は水色を映す。
「イタクさんの我が儘は私が聞きます」
「ッ!……期待はしねーで待ってやる」
「はい、お任せ下さい」
同じ理由で赤らめた顔を見合わせた二人。
片方は照れ隠しに外方を向き、片方は照れ臭そうに微笑んだ。
要するに、です
(たった2文字の単語が)
(キミの前では出てこない)
「何で付き合わねーんだ?」
「好きだって言ったようなもんだろ」
「だぁぁ!!!!しっかりしろよイタク!」
─周りは皆もどかしい!
end
好きと言えない葛藤を抱きながらも甘い時を過ごすのです。
次からはシリアス編突入!!