水色マシェリ

□一緒
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「美月姉ちゃん!!」

「見て見て!これね……」


新月での一件からアイツによく懐くようになった二匹の子妖怪。
凄いです!なんて、見せられた木の実やら変わった形の石やらに嬉しそうに笑っている。


「これやるよ」

「わあ、いいんですか?」

「うん。貰ってよ、美月姉ちゃん」

「ありがとうございます!宝物にしますね」


思わず舌打ちをしてやりたくなるような心境。
簡単にアイツの笑顔を引き出す子供に、ただ単純に悔しいと思った。

─────

キュ、と可愛らしい鳴き声を上げた目の前の小動物に美月は首を傾げた。


「えーと……イタクさん、ですよね……?」


今日の夕飯です!と捕まえようとすれば蹴りを喰らい、ネズミ?キツネ?と問えば(何を言っているのか分からないが)怒られ、赤いバンダナに気付いて「イタクさんのペットですね!」と自信満々に答えれば罵声を浴びせられた(何となく「バッカでねーかお前!!!!」と言われた気がした)。
以前、淡島に「里の外に出っとイタクの奴昼間はただのイタチなんだぜ」と教えられた事がある。
その事と、野性にしては人懐っこい(?)黄褐色の毛色の動物とを踏まえると、定かではないが美月の中で一つの結論が導き出された。


「キュ」


鼻を鳴らして仁王立ちで腕組みをするその行動は見た目の可愛らしさと随分掛け離れている。
やっと分かったか、と言いたげな表情に美月は漸く確信した。


「そのお姿は初めて拝見したので分かりませんでした。とても可愛らしいです」

「キュッ!」

「ご不満ですか?」


円らな瞳であるはずなのに、キッときつく睨む様はイタクそのもの。
どうやらこの姿でも男に可愛いは禁物なのだと理解した美月は「どうして急にそのお姿に?」と本題に切り出した。


「妖気、とやらが立ち込めてますから里では人型でいられると以前淡島さんにお聞きしました」


里の外、というのも美月にはいまいちピンと来ないが、とにかく今ここにいる所は里である事に間違いはない。
イタチではないといけない理由があるのだろうかと疑問符ばかりが浮かぶ。


「え……?イタクさん?」


ちょこちょこという効果音が似合うような、唐突に山中へ向かう小さな後ろ姿。
少し歩いた所で振り返ると、きょとんとする美月について来いと顎で促す。


「どちらに行かれるのですか?」


歩くのに大変ではないだろうかと最初は思っていたが、小さな体で器用に山道を登って行く様子に余計な心配だったとすぐに思い直した。
前を行くイタクは時折振り返り、美月が離れずについて来るのを待つ。


「あ…!待って下さいッ」


タタッと急に軽快になった走りに慌てて後を追う。
足場の悪い道に気をつけながら、それでも前を駆ける小さな影を見失わないように小枝や落ち葉を踏み鳴らしていく。


「イタクさ……!!!!」


パアッと温かな陽射しが降り注ぐのは、木々の開けた狭いスペース。
日の光が差し込む所の少ない遠野の里。
眩しさで一瞬目が眩むも、影を作るべく美月は日傘を差し直した。
キュ、と鳴いた声に目を向けると、咲き誇る山百合を背後にイタクがこちらを見ている。


「イタクさん?」


首を傾げる美月に背を向け、徐に近くの山百合を口に加えるとプチッと茎を折る小さな音が響いた。
ちょこちょこちょこちょこ。
短い四肢を動かして、総状の尾と同じ位ある花を運ぶ。


「え………?」


美月の足元で止まったイタクは、首を伸ばして山百合を差し出す。
戸惑いつつも、しゃがんでその花を受け取るとすぐにふいっと顔を反らされてしまった。


「これ……私に?」


問い掛けても答えは返ってこない。
でも、そこまで自分は鈍感ではないから返事がなくとも不器用な彼の気持ちは十分に伝わった。
初めて貰った彼からのプレゼント。
ほっこり温かい想いを噛み締めて、自然と顔の筋肉が緩む。


「ありがとうございます」


丸い背中にお礼を告げると、ふわふわの尻尾が小さく揺れた気がした。


恥ずかしがり屋の男の子

(ツンとそっぽを向いて)
(赤く染まった顔を見られないように)



─精一杯の好きを示す




end

鼬の姿で照れをごまかそうとしたんです。笑

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