水色マシェリ

□ンゲ
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「疲れた時にはこれだ」と仰っていたから、少しでもあなたの力になりたいと思ったんです。

─────

「切ったレモンを蜂蜜で漬ければお終いよ」


昨日冷麗さんから作り方を教わって初挑戦したレモンの蜂蜜漬け。
蜂蜜を派手にレモンにかけてしまったせい(確実にそのせいですが)かいつもよりずっと甘いそれ。
一晩漬け置いたレモンはくたりとしているが重ね方が悪かったのか所々味にムラがあります。


「喜んで頂けるでしょうか…」


いつもいつも助けてもらってばかりだから少しでも彼の力になりたい。
ピョンピョンと太い枝を跳びはねて行くと実戦場はすぐそこ。
やはり力を公にできるっていいですね(前から考えなしに使ってましたけど…)。
森の開けた場所にある大きな大きな切り株が見えてくれば、後は目的の方を探すだけ。


「イタクさん」


いないと思い真下に移した視線の先に入った赤いバンダナに嬉しくなって、ピョンと木から飛び降り横に並ぶ。


「休憩中ですか?」

「ああ」

「差し入れにレモンの蜂蜜漬けです。お召し上がり下さい」



ナイスタイミングです、と心の中で喜んで抱えていた包みを開き蓋を取って重箱を差し出す。
ジッと見ていては失礼ですよね、と思いながらもチラチラと向かう視線はレモンを口にした彼。


「これ、誰が作った?」

「わ、私です。冷麗さんに作り方を教わりながら…いかがですか?」


緊張した面持ちで次にくる言葉を待つ。
はっきり物言う方ですし、やはり「まずい」と仰るでしょうか…でも本当の事ですし……あ、ちょっと私今帰りたいです。
ヘルペス ミー!あり?ラルミス ミー?


「甘すぎだ」

「す、すいません…蜂蜜を瓶ごと入れてしまいまして…」


率直に言われなかった事に安堵しつつも、もっと美味しいものを作って差し上げたかったと自己嫌悪。


「やはり冷麗さんのをお持ちしますね。屋敷に戻っ…「置いとけ」


仕舞おうとした途端、遮るように言われた事に思わず目を丸くしてイタクさんを見る。


「いいからそこに置いとけ」

「ですが…」

「俺が食いてーつってんだ」

「甘い、ですよ…?」

「知ってる」

「苦手、では…」

「偶には甘ェもんもいいだろ」


前にもこんなやり取りした時あります、と思っていたら「しつけェ」と切られてしまいました。
それはイタクさんも一緒ですと口には出せず、不服丸出しで見上げると彼の口元が僅かに緩んだ気がした。


「おめーが作ったんならどんなもんでも俺が最後まで食ってやる」


それって……。
ぽかんと相手を見つめていたらコツンと軽く頭を小突かれる。


「そこで待ってろ。一戦してくる」

「は、はいっ」

「食わせんでねーぞソレ」

「え…?」


ソレ、とはきっと私が作ったレモンの蜂蜜漬けの事。
えっと、それは…"喜んで頂けた"と解釈しても構わないのでしょうか?
確かに『まずい』とは仰ってはおりませんが良いように捉えすぎですよね…?
随分と思考を巡らせていたのか、ふと気付けば遠ざかる彼の背中。
そこに慌てて呼びかけた。


「イタクさん!」


足を止め、顔だけ後ろを向く。
それだけなのに何だかとても嬉しくて「頑張って下さい」と声をかけると、


「おう」


いつもはあまり笑わない彼が優しく笑った。
それはほんの一瞬で、でもとても大きな出来事。


「、…??」


トクン、と小さく響いた心の臓。
これまで感じた事のない感覚にただただ浮かぶたくさんの疑問符。
熱を帯びた両頬がどうしたのかなんて皆目検討もつきません。


なんだか胸がかゆいのです

(…虫刺され?…あせも?)
(どこか甘い疼きの正体は何ですか?)



思い出すは、煙草の香りと華のような彼女の笑顔。


─色褪せた感情が蘇る




end

無意識に"優先順位一位イタク"なヒロインちゃん。
あくまで無意識なので振り回されるイタっくんとそれを見て面白がる周り(主に淡島)(*`艸`)
ヒロインちゃんの初恋は土方さん。

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