水色マシェリ

□メレ
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戦闘好きで手加減なんか知らねー奴らばっかだから勿論、怪我も尽きなければ、体力だって怱々持たない。


「イタクー、次俺とやろうぜ」

「おめーは休んでても俺はぶっ続けなんだ。少しは休ませろ」


仕方ねーなァ、と言う淡島の言葉を後ろで聞きながら実戦場の隅の大樹に寄り掛かり体を休める。
繰り広げられる雨造と淡島の肉弾戦をボーっと見ていると「イタクさん」と頭上から呼ばれた。
木の枝を跳びはねてきたその声の主は俺の隣に上手い具合に着地するとニッコリ微笑む。


「休憩中ですか?」

「ああ」


本来の力を発揮し始めてから(ちょくちょく使ってたが)のびのびしているように感じるのは気のせいではないだろう。


「差し入れにレモンの蜂蜜漬けです。お召し上がり下さい」


抱えていた包みを開けて重箱の蓋を取る。
調度疲れていたところだと手を伸ばし、口に含むと柑橘の酸味と蜂蜜の甘さが広がるがいつものシャリシャリ感が全くない。


「これ、誰が作った?」

「わ、私です。冷麗さんに作り方を教わりながら…いかがですか?」


さっきからチラチラこっちを気にしてると思ったらそういう事か。
まずくはねーがいつも食ってる冷麗のと比べれば正直まだまだ劣る。
所々味にムラがあるし、なにより…─。


「甘すぎだ」

「す、すいません…蜂蜜を瓶ごと入れてしまいまして…」


申し訳なさそうにしゅんと落ち込むソイツ。
台所でのその光景が簡単に想像でき、気付かれぬよう小さく口元を緩めた。


「やはり冷麗さんのをお持ちしますね。屋敷に戻っ…「置いとけ」


仕舞おうとするその手を止め、目を丸くするソイツに「いいからそこに置いとけ」ともう一度繰り返す。


「ですが…」

「俺が食いてーつってんだ」

「甘い、ですよ…?」

「知ってる」

「苦手、では…」

「偶には甘ェもんもいいだろ」


しつけェ、と中々引き下がんねーソイツを一蹴し、やっと大人しくなるも腑に落ちないといった顔して見上げてくる。
見かけによらず結構な頑固者だと知ったのは、涙を懸命に堪える姿を見た時から。
それと同時に護ってやりてぇとも。


「おめーが作ったんならどんなもんでも俺が最後まで食ってやる」


きょとんとするソイツは俺が言いてー事を理解してんだかしてねェんだか。
気付けよ鈍感と心の中で思うも、気付くなと矛盾した気持ちもある。
その事を考えないように水色の頭を軽く小突いた。


「そこで待ってろ。一戦してくる」

「は、はいっ」

「食わせんでねーぞソレ」

「え…?」


体を預けていた大樹から離れ、戦い終わったばかりの淡島達の方へ向かう。
釘を刺しとかねーと雨造辺りが食いきりかねねェからな。
背の鎌に手を伸ばすと同時に「イタクさん!」と聞こえたソイツの呼ぶ声に顔だけ後ろを向けた。


「頑張って下さい」


幼さを残した顔が綻ぶ先には俺がいる。


「おう」


それだけで俺がどんだけ嬉しいかなんて、頭ん中空なお前は知るはずもねーだろうよ。


きみの笑顔が原動力

(疲れが取れたのは休んだからでも)
(甘ェもん食ったからでもねーんだ)



─アイツの葛藤なんざ知る由もなかった




end

好意を持ってることを知ってほしいようで知ってほしくない、そんなイタっくんのちょっと甘い一時。

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