水色マシェリ

□アーモンド
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「よーし撮るぞォ」

「わざわざ試し撮りなんざする事ねーだろ」

「ですが万が一もありますし、それに皆で写真を撮るなんて久しぶりじゃないですか。一石二鳥です」

「近藤さーん、まだですかィ?」

「痛痛痛ッ!!隊長!はみ出る!俺確実にはみ出ますからコレ!!!!」

「ほら早く並んで!いくぞ、はいチーズ!!」


─────

浮上した意識、ぼんやりと霞がかった思考の中で随分懐かしい夢を見たなと余韻に浸る。
実際懐かしむ程月日も経っていないのに、何年も前のような錯覚。


「気がついたか」


朧げな脳にはっきりと認識されたその声は特別低くもなければ、高くもない心地好いテノール。


「……イタクさん」

「微熱があるからまだジッとしてろ」


起き上がりかけた体は確かに気怠く、軽い目眩の後簡単に布団へ逆戻りする。
熱なんて滅多に出さないのに、と思いながら「すみません…」と呟けば、顔にバサリと布を被せられた。


「拭いとけ」

「へ…………?」


意味が分からずにタオルの隙間から窺った彼の横顔。
何気なく触れた自分の頬が濡れている事に漸く気付いた。


「見せたくなくて我慢してたんだろ」

「あ……」

「汗臭くても我慢しろよ」

「いえ…」


情けない。
自分は何をしているのだろうか。
涙なんて流してる場合ではないのに。


「すみません……」

「何で謝る」

「ご迷惑を、かけてばかりです…」

「……誰かになんか言われたか」

「いえ……私の勝手な解釈です」


視線が痛い。
顔を上げるのが怖い。
せっかく認めてくれたのに突き放されやしないかと、怯える心はさながら兎のよう。
もっともっと強くなりたいのに──ギュッと指が白くなるほど強く握りしめられた布団。
情けない、悔しいと自責する美月の前にスッと何かが差し出された。
それは間違いなく自分の物で、ここに来る前から肌身離さず持っていた黒い手帳。


「コレ…私の、警察手帳…ですか?」

「礼なら冷麗に言え」

「は、はい。ありがとうございます」

「…中身見ちまったんだが、見られたくなかったなら謝る」

「いえ、そんな!拾って下さって本当に感謝しています」

「だからそれは冷麗に言え」


ふとイタクの脳裏を過ぎった写真の中の明るい笑顔。
そして先程、自分達の前でも笑ってほしいと言った冷麗の台詞。
そう思っているのは彼女だけでは…─。


「話してみろ」

「……え?」

「睡眠不足と疲労が溜まるくれェのもん抱えてねーで吐き出してみろ」

「そんな事…「今なら」


労るようなその眼差し。
不器用に隠れた飾らない優しさ。
目の前にあるそれらに美月にはとても眩しいもののように映る。


「俺しかいない」


差し出された彼の手を、臆病で意地っ張りな自分は素直に掴む事は出来ないけど、それでも少しだけ勇気を出して…─。


「………思い、出さないように…してたんです」


ポツリと、初めて本音を零した。


「帰りたいと願ってしまうから…忙しく動いて、気を紛らわせようとしてました……でもやっぱり、無理、でした」


静かに、ただ聞いてくれる彼に泣きそうになりながら精一杯の笑顔を繕う。
泣くのを懸命に我慢しているようにしか見えない痛々しい笑みにイタクは僅かに顔を顰た。
泣きたいのなら泣けばいい──そんな簡単な事を彼女はしない。
もう一度涙を見せてくれるのならば今度はそれを拭ってやるのにと、監視の一線を越えた考えすら浮かぶ自分に舌打ちをしたくなった。


「……俺達を頼れとは言わねェ。無茶をするなとも言わねェ。でもな、おめーが倒れると心配する奴らがいる事だけは覚えてろ」

「………え?…それは……」


どういう事でしょう、と続くはずだった言葉はバタバタバタと煩いくらい響く複数の足音に掻き消された。


「美月ー、具合どうだァ?」

「目覚ましたら呼べっつったのにイタクは独り占めかよ」

「顔色良くなったなー」

「コホコホ、大丈夫?」

「無理しちゃダメよ。今日は薬を飲んでゆっくり休みなさい」


スパンと中々勢い良く開いた障子からはここ数日で見慣れ始めた面々。
いきなりの事に瞬きを繰り返す美月の額に冷麗のひんやりと冷たい手が当てられた。


「まだ少し熱いわね」

「何か欲しいもんあるかー?」

「水は、コホコホ、飲む?」


世話を焼いてくれる土彦と紫に美月はまだ付いていけない。
確かにこんな得体の知れない自分を彼らは受け入れてくれた、優しくしてくれた。
でも、どうしてここまでしてくれるのだろうか。
困惑している美月に気づいた淡島が枕元にドカリと胡座をかくと、わしゃわしゃと乱暴にその水色の髪を撫で回した。


「わっ!あ、淡島さん?」

「バッカだなー美月は」


何故そう言われたのか分からず、疑問符を浮かべながら見上げた淡島の顔はニカッと明るい笑み。


「俺達は友達なんだから遠慮なんていらねーんだよ」

「え………?」

「いきなり倒れっから心配しただろ」

「心、配…?」

「そうよ、美月」


淡島の隣でふわりと優しく冷麗が笑う。


「回りをよく見て?貴女は一人じゃないわ。傍には私達がいるもの」

「そうだぜー」

「安心しろよ」

「コホコホ、大丈夫よ」


言葉の意味を咀嚼した直後、込み上げてくる温かな感情。
顔の筋肉が和らいで、だらし無く緩んでいるに違いない。
帰りたいと思う気持ちは変わらないけれど、もう少しだけ、もう少しだけここに…─。


「─はいっ!」


美月は元気でやってます、だから安心して待っていて下さいね──心の中で、繋がらない空の下にいるかけがえのない仲間に送った。


「………やっと笑ったか」

「へ?」

「何でもねェ」

「照れんなよ、イタク。美月が倒れてすっっごく心配してたくせによ」

「な"…!!淡島!テメー表出ろ!!」

「コホコホ、子供…」

「止めなさい二人共。美月、何か食べたい物ある?」

「遠慮すんなよー」

「そうそう。熱出したら甘える、コレ基本だぜ。キヒヒ」

「…では……ご飯が、食べたいです」

「「「「了解」」」」


意地っ張りガールの甘え

(今日くらいは甘えても)
(バチは当たりませんよね?)



「……五合目、よね…」

「人間て…よく食うんだな」

「どこに入んだよ…アレ」


─元気になったあの娘の胃袋は強敵!




end

土彦さんの口調が全く分からず…
そしてグダグダ(←泣;;

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