水色マシェリ

□星
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馬鹿げてる。
「異世界から来ました」なんて一体誰が信じるだろうか。
嘘にしては突拍子もない、だからと言って現実味が全くない。
信じろと言う方が無理だろう。
それとも此方が簡単に「はい、そうですか」と言うとでも思っているのだろうか。


「出鱈目を言うな!!」

「我ら遠野妖怪を馬鹿にしとるのか!!」

「喰ろうてしまえ!」

「殺せ殺せ!」


思っている事を口にするかしないかの違い。
皆の心を代弁するかのような周りからの野次が飛び交う中、赤河童様の前に座るソイツは変わらずにただ前だけを見据えていた。


「信じて下さいなどと言うつもりはありません」


臆する事のない澄んだ目。


「でも、帰る所があるから。私を信じて下さる仲間がいるから」


そこに宿すは揺るぎない強い意志。


「なんとしてでも、私は帰らねばならないんです」


決して大きい声ではないのに周りのざわめきなんて関係なく、直接耳に届くソイツの声。


「……誠、真っ直ぐな目をしておる」

「へ…?」

「美月、といったな」

「は、はい」

「行く所がないのであればここにいるとよかろう」


静かに口を開いた赤河童様の言葉に驚愕したのは俺達ばかりではなく、言われた当の本人も目を見開いて固まっている。


「なッ…赤河童様!一体何をおっしゃるのです!!このような得体の知れない者を遠野に置くなどと…!」


そうですそうです、と皆が口々に批判する中、隣に座る淡島と雨造は愉しそうに事の成り行きを見ていた。


「キヒヒ、面白い事になってきたぜ。な、イタクー」

「そう思ってんのはお前らだけだ」

「何だよ、ノリ悪ィな。オレはいいと思うぜ。人間のくせに面白ェ」

「……たかが人間だろ」


人間の子供に何が出来るとは思っていない。
それでも、頭を過ぎるのは静かに涙を流すアイツの横顔。
さっきまでの威勢はどこにいったのか、視線の先にいる弱い存在は「へ?え、あの…」と口篭ってはワタワタとしている。


「だが、一つ良いか」

「あ、は、はい!?」


有無を言わせぬ里長の低い濁声にビクリと跳ねる細い肩。
ギョロリとした大きな目が真ん前の小さな女を見下ろす。


「なぜお前にはここが異世界と分かる?」


簡単なようで難しい質問。
証拠がないというのにここを異世界だと断言しているには何か理由があるのだろう。
不意打ちを食ったようなソイツの顔。
もしここで上手く答える事が出来なければ、今と状況は確実に変わる。
ゆっくりと女の口が動いた。


「空に、何もありませんので」


きっと、それは確かな理由。
誰かを欺く事を知らない、どこまでも真っ直ぐなあの目が「そうだ」と言っている。


「…………そうか」


それ以上は何も聞かず、赤河童様は辺りを見渡し「冷麗」と耳に馴染んだ雪女の名前を呼んだ。


「はい、ここに」

「この者を女部屋に案内してやりなさい」

「承知しました」

「美月や」

「は、はい!?」

「ここは様々な妖怪が行き交う。もしかしたらお前が元の世界に戻れる方法を知ってる奴が居るかもしれん。それまで好きなだけ居るといい。だが、ここに居る以上仕事はやってもらうぞ。今日は疲れただろう。ゆっくり休め」

「ありがとう、ございます…?」


何の咎めも特になく、とんとん拍子に事が進んだのをいまいち理解できないのか、随分マヌケな顔をしている。
それが余程面白かったのか両端の二人が肩を震わせながら懸命に笑いを堪えていた。


「ついて来て」

「え、あ、はい」


人の良い笑みを浮かべた冷麗の後をソイツは戸惑いながらも追っていく。
無言で眺めていると、不意に振り返った丸い瞳と視線がかち合った。
それは、遥か頭上に無限に広がるあの空間と同じ綺麗な青。
目が、離せなくなった。
ドクンと大きく心臓が脈打つのが嫌でも分かる。


「さあ、こっちよ」


冷麗の声にハッとし、咄嗟に視線を逸らすと、慌てて返事をするまだ聞き慣れないソプラノが鼓膜に響いた。
いつもより早い鼓動に戸惑いつつも表面上は何ともないように冷静を装っていると、ふいに赤河童様が俺を呼んだ。


「イタク」

「はっ」

「あの娘の監視、お前に任せた」

「…御意」

「中々面白い子供よ」


殆どの妖怪が苦々しい顔をする中、どこか楽しげに呟く赤河童様の声を聞きながら、会ったばかりの女を思い出す。
人の心を引き付け、夢中にさせる。
あれはまるで…─。


「……空、」


蒼い空に焦がれた

(本来ならば出会う事もなかった存在)
(切り取られた青空みたいなあの子)



─なんて綺麗で、儚いのだろうか




end

これからイタッくんの片恋が始まります(*`艸`)
相変わらず酷い文…(←泣;;

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