水色マシェリ

□空
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どうして掴んでやることが出来なかったんだろうか


「異世界、だと…?」

「先の闇天丸との死闘で空間に歪みが発生したのは分かっておった。だがそれがまさかこのような事態を招くとは…迂闊であった」


今にも泣きそうな顔をしていたあの娘をなぜ助けてあげられなかったのだろうか


「美月はどうなるんでィ!!」

「落ち着け総悟!すぐに連れ戻せるんですよね!?」


怒りに満ちた総悟を宥めながら、焦りを色濃く見せた近藤さんが結野家当主に問う。
【結野晴明】結野家当主歴代の中で最も才に満ちた人物。
原因を知り、術に長けるこの男がいる限り美月は大丈夫だ、誰もが不安な心にそう言い聞かせていた、が─


「すぐには無理じゃ。どこに飛ばされたのかも分からぬ今、成す術はない」

「てっめ…!」

「止めろトシ!!!!」


眉一つ動かさぬまま余りにも酷な事を言う男の胸倉を掴み上げる。

アイツが、美月が、何をした?
いつものように俺達の騒ぎを、いつものように笑ってみてただけだろ?


「三ヶ月じゃ」

「何…?」

「今すぐには何も出来ぬが三ヶ月あれば連れ戻せる。お主らの仲間は我ら結野衆の総力をかけ、必ずや何とかしよう」


感情を汲み取る事の難しい顔をした男の胸倉から乱暴に手を離し、背を向けた。


「……行くぞ」

「副長!?こんな胡散臭い連中の事信じんですか!?」

「アホか」


悔しげな山崎の声を聞きながら、胸ポケットから煙草を取り出して火を点ける。
「少しお控え下さいね」といつもは隣から聞こえてくるはずの声が今はない。
その事に淋しさを感じつつ、ゆっくりと紫煙をはきだした。


「誰が信じるかよ」

「なら…!!!!」

「神だか陰陽師だかンなもんクソ食らえだ。
 今も昔も俺達が信じんのは─仲間だけよ。
 伊達に真選組名乗っちゃいねェ。
 アイツがそう易々くたばるかよ」


真上に広がる青空が美月の笑顔と重なる。


「三ヶ月経っても美月が戻ってこなかったら、そん時ゃ夜襲に気をつけるこった」

「別に俺は今夜でもいいですぜィ」

「そう言うな、総悟。待てん男は女性にモテんぞ」

「それ局長が言っても説得力ないです…」


お前の強さを知ってる。
何があってもアイツなら大丈夫だと、俺の補佐官をナメんじゃねェと、堂々と胸を張って言える。
それでも─


「早く帰って来い、美月」


  お前の笑顔を一秒でも早く見たい

─────

青い、碧い、蒼い空
それは仲間達と自分が繋がっていない事を裏付ける確かなもの。
混乱はまだしている。
でもいつまでも俯いている訳にはいかない。
泣きたいなんて甘い事を言ってはいけない。
私は、腐っても、転んでも、野垂れ死んでも
   ─真選組隊士なんですから


「…来い。赤河童様がお呼びだ」

「あ、赤…?」

「ここを治める里長だ。目が覚めたら連れて来いと言われてる」


長…、一番偉い…妖怪?
あれ?でもこの方は妖怪?
どう見ましても人…ですよね?
妖怪、と言われますと…こう、もっと厳ついイメージが…


「早くしろ」

「あ、はい…」


背中に鎌を納めた彼に急かされ、一旦思考を中断し後を追った。
本当はまだ苦しいと不安がる胸にきつくきつく蓋をして─


「入れ」


そう言われた所は古風な日本家屋の一室。
狼?猿?鶏?ひ、人?
様々な容貌が多勢揃うそこにキョロキョロと物珍しげに辺りを見回した。


「人の子じゃ。旨そうな人の子じゃ」

「ひひひ、恐れをなさんとはのォ」

「随分可愛いげのない娘よ」


四方からの声に「天人で見慣れてます」とは言えず、どう反応を返したらいいか分からなくて思わず苦笑い。


「ここへ座れ」


一人の妖怪に指定された部屋の中央に位置するそこ。
隣にいるバンダナの彼にチラリと視線を流すと、早く行けと顎で促された。


「ほう…水、とは…面白い色をしとる」


ドンと構えるその声の主は、ここにいるどの妖怪よりも威厳に満ち堂々とした赤い巨体。
決して優しいものではない自分への眼差しに顔が強張るのが分かる。


「…………─血…」

「!!??」


微かに呟いたその言葉は明らかに此方に向けられたもの。
聞こえた自分は運が良いやら悪いやら、隣に居る妖怪でさえ聞こえなかった一言に嫌な汗が背を伝う。


「娘、何者じゃ」


威圧されるようなその鋭い眼光。

飲み込まれてはいけない
気圧されてはいけない


「いいか美月、侍たるものどんな事にも動じる勿れ」


「私は──」


「常に堂々と、胸を張って、」


「幕府直下特殊武装警察真選組副長補佐、雨谷美月」


「己の信念を貫き、前を見て生きろ」


「私のような異種が急に現れ、大変な混乱を招いた事、深くお詫び申し上げます」


ほう…、と感嘆の声があちこちから上がる。
年若い、ましてや人間の小娘が怖じ気づきもせずに厳粛に振る舞っている様が想定外だったのだろう。


「皆様の里をどうしようなどと思ってはおりません。これは私自身も信じ難い事ではありますが、間違いなく事実です。私がここに来た経緯、詳しくお聞かせ致します。暫しお付き合い下さいませ」


待っていて下さい
必ず、必ず─お家に帰りますから


拝啓、マヨネーズ大使様
(煙草とマヨはお控え下さいね)
(私がいないからと過剰摂取はいけませんよ)





end

絡みがないのはアレです。繋ぎだから!
補足→グレーの台詞は近藤さんです。
伝わらなくてすみません(T_T)

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