漆黒の闇

□一
1ページ/5ページ

だだっ広い部屋………。
それが、まず始めに思ったことだった。

私は今、とある家にいる。

それは私の家ではない。
全くの赤の他人の家だ。

「ここに座って。」

そう言いながら私にソファーを勧める人。
『藤澤 悠矢(ふじさわ ゆうや)』
先程、名前を教えてもらったばっかりの、
赤の他人………。

「ありがとう。」

私はそれだけ言って勧められたソファーに座る。

高級感のある、白いソファー。
そのソファーの前にはテーブルがあり、そのまた前には同じ、白いソファーがあった。
丁度、テーブルを挟んでいる形だ。

私の左側に悠矢は立ち、目の前のソファーには、高校二年生位の少年が二人、
座っていた。
一人は短髪で色は黒、今は読書をしていて、
もう一人は茶髪の襟髪が少し長め、眼鏡の下から、
私を見ている。

緊迫した空気が、回りを包み込んでいた。

「宏都は?」

そんな中、隣に立つ悠矢が、ソファーに座る少年に話しかける。

「宏都は隆司と情報収集中。」

黒髪の少年は、視線を本から移さずにそう答える。

「この子は?」

そして茶髪の少年は、悠矢と私を交互に見ながら、聞く。

「拾った。
名前は
『高沢 玲(たかさわ れい)』
それ以外は…分からない。
多分記憶喪失かなんかだな。」

悠矢は淡々とした口調で話す。

「「記憶喪失?」」

そう言って二人の少年は私の方をじっと見る。
何かを探られているようで気味が悪い。
私は堪えきれず、口を開く。

「そうだよ。私は記憶がない。
気付いたら、ここにいた。
この世界に。」

私はそれだけ言うと、悠矢の方を見た。
悠矢は頷き、二人の少年に説明を始める。

「さっきも言ったが、玲は拾った。
海の真ん中で………。」

「真ん中!?」

そう言って茶髪の少年は私を見る。
私は顔をしかめ、短い溜息を一つ、零した。

「悪い悪い、唯に悪気はないんだ。
許してやってくれ。」

悠矢は私の方を見て、そう言った。

唯………それが茶髪の少年の名前のようだ。
私はじっと、唯を見つめてみる。
そして、唯の隣にいる黒髪の少年を見た。



「自己紹介がまだだったな。
俺は、
『片岡 唯(かたおか ゆい)』
んで、コイツが…。「自己紹介位自分でする。」

唯と名乗る少年が隣の黒髪の少年を紹介しようとした時、その少年は本を静かに閉じ、唯を制止した。

「俺は、
『仁藤 炯(にとう けい)』
そんで、玲………君は何故海の真ん中にいたの?」

炯と名乗る少年は、真っ直ぐに私を見て質問する。

「知らない。
さっきも言ったけど、本当に記憶がないの。」

私は真剣に、そう答える。

「じゃあじゃあ、
何で悠矢に付いてきたの?」

鋭い質問。
私はフッと鼻から息を吐き、視線を唯の方へと向けた。

「命令。」

「「「命令?」」」

三人の声が、綺麗にハモる。
そして、私を、
じっと見る。
当然だろう。
記憶がないのだから、命令なんてものがないと考えるのが、普通の考えだ。

「そう………命令。
脳から直接来る…命令。
直感って言った方が正しいのかしら。」

そして私は、含み笑いをする。

「だから、悠矢に付いてきたの。」

三人とも目を見開き、なんとか状況を理解しようとしているようだ。

暫く沈黙が続く。

最初に沈黙を破ったのは、
悠矢だった。

「取り敢えず、玲は暫く家に置いておくから。
宏都には後で俺が言っとくし………。」

それを聞いて、二人が口を開く。

「分かった。
どーせ空部屋ばっかだしな。」

「宏都に言っとけば大丈夫っしょ♪
これから宜しく、玲」

そう言いながら、唯は腕を私の方へ差し出す。
私は意味が分からず唯を見る。

「握手♪」

そう言って唯は私の右手をとり、
唯の右手とあわせた。

その時気付いたことが一つ………あった。



「じゃっ玲、こっちに………。」

悠矢がどうやら私の部屋の方へと案内するようだった。
私はあわせていた手を離し、悠矢の後を歩く。

その時は聞こえなかった。

唯と炯の、
話し声を………。





そして、
私に近付く、



足音が………。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ