小説

□雨のちくもりのちいつかは晴れ
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黒鷹の手をとったのは、きっとあいつが一番君を知っていて、君という人をたくさん覚えているから。
僕の知る君とあいつの知る君。何が好きで、何が嫌いか。生まれてから死ぬまでの君の話をたくさん聞いた。初めての料理での失敗、家畜の出産に立ち会った時の事、黒鷹にどうにか野菜を食べさせようと奮闘したりと、当たり前だけどあいつと君との思い出は数多くあって、僕たちの時間は本当に少なかった事を思い知らされる。

君の話を聞いて、ちょっとした事に興味を持つと黒鷹はじゃあ行こうか、なんて言って強引に連れまわす。僕はそれが少し嫌で、でもとても感謝していた。
見知らぬ異国の料理、君が植えたいと言った花、楽しみにしていたお祭り、君の思い出を通して見る世界は眩しくて、どこからか君の声が聞こえてきそうだった。

「ねぇ、黒鷹」
「なんだい」
「玄冬は世界を愛していたんだね」
「…そうだね、そしてお前を大切に思っていたよ」

優しい玄冬。大好きな君。

不器用で、頑固で、…強くて、弱かった。

もしかしたらを、何度も考える。玄冬なら、玄冬だったら。
君を殺して、それでも君なしには世界すら見れない僕を君は呆れるだろうか。それとも、それでもいいと許してくれるだろうか。

「僕も、世界を好きだと、思える日が来るのかな」
「さぁ、それはお前次第だね」

憎んでいた世界は、君を通すとこんなにも美しい。

黒鷹は意味深に、だけど柔く笑んで髪を雑に撫でた。



僕は今日も、君のいない世界で目を覚ます。






2014/6/8

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