神喰

□私の兄を紹介します
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年の離れた兄からのメールに近く極東に帰る、という一文に、思わずマジかー…と呟いてしまった。

兄、伊鶴は神機使いである。加えて、元ホストである事も紹介しておこう。
適性有の知らせとフェンリルへの出頭、および神機使いへの配属に店の人たちは一番の売り上げを手放す事に嘆き悲しみながらも盛大に見送ってくれた。シャンパンタワーだとか薔薇の花束だとかレッドカーペットだとか、なんだかよく解らないがとにかく盛大だった。女性たちが泣きながら餞別のプレゼントを渡していたが、記入済みの婚姻届の用紙はプレゼントに含まれるのか未だに疑問だ。

兄は元々何事においてもそつなくこなす人で、勉強運動料理と、まぁ、欠点が無いわけではないがそれらを隠すほどにはよく出来た人だった。だから神機使いという、死と隣合わせの職に就くと聞いた時にも怪我の心配はあれど、死ぬかもしれないという心配は不思議となかった。
深い意味は無いが高校時代の兄の通り名が狂犬であったこともついでに紹介しておく。

幼い頃に両親を亡くし、兄が親代わりとなり私たち弟妹を育てた自慢の兄である。稀に暴走するのが傷ではあるが。
そう、幼い弟が不審者に声をかけられ自力で撃退した折もその後不審者は何者かに襲われ半死半生を彷徨い捕まっただとか、しつこく声を掛けてくる軟派者がいれば物陰で兄による話し合い(物理)によって撃退とか。シスコンとブラコンを併発している兄―――…伊鶴。現在は欧州支部にてクレイドルとして活動しているその人が帰ってくる。

「…飛鳥くんに教えておこう」

恐らくは弟にも同じく知らせのメールを送ってはいるだろうが、弟の反応も知っておきたい。勿論久しく会っていない兄との再会は喜ばしいが、どうにもこうにも、過保護なのだ。兄は。

「お兄様、ですか」
「うん」
「兄弟いるって言ってたもんね!ねぇどんな人?やっぱり隊長に似てる?」
「見た目の話なら、…多分?」
「なんで疑問形なんだ」
「あんまり言われた事なくて…。あ、でも髪色は同じ」
「赤いの?」
「赤いよー」
「君たちは赤毛の遺伝子が強く出ているんですね」

弟共々、見事に赤い髪色はそれぞれ濃淡の差はあるが些細なものだ。あと似ていると言えば二人の髪質、少しくせ毛が強くてはね具合が似ていると思う。

「早く会ってみたいなー!」
「三兄弟全員が神機使いなのもなにか遺伝子とか関係あるのか?」
「うーん…どうだろう。榊博士は色々調べてるけど、エリナも兄妹で神機使いでしょ?そんな特別な事じゃないのかも」
「でも弟さんの、飛鳥君も神機使いになりましたし」
「…関係あるのかなぁ」
「お兄さんも血の力に目覚めるんじゃない?」
「かもね」

無い、とは言い切れない。先だって飛鳥くんが目覚めたばかりだ。三兄弟揃って血の力に目覚める。うーん、ありそう。血の気が多いのはやはり血筋か。両親は割りと温厚で普通の人だったと思うのだが。

自分としては両親譲りの、比較的温厚の部類に入ると思っていたのだが、友人たち曰く、んなこたぁない、と。何故。
神機兵で飛んで行ったり、素手でもアラガミから逃げないし。その他諸々の事を引き合いに出され言葉に詰まる。

でもそれは、と抗議の声をあげるもはいはいと宥められた。

「隊長が、誰かの為に無茶するのはみんな知ってるよ」
「だからこそ心配も尽きないんですがね」
「…つー事だ」

温厚ではある、けど無茶しがち!とナナに止めをさされた。ぐうの音も出ない。

「…兄さんには言わないでくれると助かります」
「どうしよっかな」
「ナナー…」
「…君の頼みなら仕方ないですね」
「シエル!」
「…どうせ報告にはあがってるしな。改めて言う事もないだろ」
「…ギル」
「えぇー…私がいじめっこみたいになってる…」
「ナナ…」
「うぅ…解ったよ。私も言わない!」
「大好き!」

ぎゅうと抱きしめると、その代り!と人差し指が向けられる。

「私たちにもちゃんと紹介してね?」
「もちろん!」

自慢の友人たちを紹介せずに、一体誰を紹介するのか。
そうして友人たちにもあの兄を……紹介しなければならないのか。よく考えると、いや、よそう。深く考えると躊躇してしまう。

欧州支部で更に力をつけただろう兄を思うと、少し複雑だ。ビンタでもされようものなら意識ごと飛ぶ威力だったが、今頃はどうなったのか。その威力を身を持って知ることはないが、餌食となる人がいない事を祈るばかりである。






2014/06/25

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