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□彼と彼女とあたし
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くちづけを一つ交わすたび、嘘が増えていく。
「ホントに送って行かなくて平気?」
彼の家の玄関先。
見送りに玄関前までついてきた彼はあたしと唇を重ねた後心配そうにそう問い掛けてきた。
「いいって、いいって! 何回も言ってるのに、心配性だなあ。大丈夫だよ、あたしの家、近いんだから。知ってるでしょ? 昔はよく遊びに来てたんだし」
そう答えても、まだ心配そうな顔。
……うん、やっぱりすごく、いい人なんだ。
彼がいい人だってこと、あたしはとてもよく知ってる。
成績優秀で、顔だって親しみやすい中の上。
付き合いはじめて一年経つのに、未だにキスしかしようとしない純朴さ。
誰かに嫌われることなんて絶対にない、そんな人。
きっと将来はいい夫だとかいい父親だとかになれる、理想の恋人。
だから。
「あら、めーちゃん。来てたのね」
背後から聞こえてきた甘くて優しい声。
この声を、聞くたびに。
「清香さん……」
「姉さん、おかえり!」
高鳴る自分の鼓動に、胸が張り裂けそうになる。