+小説+

□お姉ちゃんなんてっ!
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 私の名前は《舞風 桜》小学校四年生。
 私にはお姉ちゃんがいる。
 名前は《舞風 雪》小学校五年生。
 生徒会副会長をやっている《猫被り》な極悪人。
 そう、他の皆の前では《才色兼備、心優しい優等生》を演じているくせに、私の前でだけ《子供っぽい意地悪》になるんだ。
 だから、私はお姉ちゃんなんてだいっきらい!




「……お姉ちゃん?」
「なーにー? 桜ー」

 ニヤニヤ意地の悪い笑い方。
 肩をプルプルさせて怒りを堪えていた私は、向けられたその笑顔がトドメになり、ついに血管を何本かプッツンさせた。

「なーにー? じゃないでしょこの馬鹿姉ッ!
私のシュークリーム勝手に食べたなっ!?」
「なんのことかな〜?」
「しらばっくれるなっ! その口元についたクリームが動かない証拠だっ!」

 そう指摘するとお姉ちゃんはギクリ、と擬音が聞こえてくるような仕草で身体を強張らせ小さな声で「あ、しまった」と漏らした。
 うん、やっぱりお姉ちゃんも子供だ。
 肝心な所で詰めが甘い。
 よし、今日は勝った……

「ち、違うもんねー! これは、そう、歯磨き粉だもんっ!」
「はあっ!?」

 いくらなんでも、その嘘には無理があるでしょ!? お姉ちゃんっ!

「ホントだもん、嘘じゃないからねっ!」

 ……無理矢理押し通すつもりか。
 このままじゃ、埒があかない。
 ……うーん、どうしようか?
 あっ! そうだ!

「……お姉ちゃん、お姉ちゃんの使ってる歯磨き粉って何味?」
「へ? ミント味だけど? 桜と違って、もう子供用苺味なんて使ってないしっ!」
「苺味の何が悪い! ……ってまあそれは置いといて。
ってことは、それは苦いはずだよね?」

 そう問い掛けながら、私はお姉ちゃんの口元についたクリーム(お姉ちゃんいわく歯磨き粉)を指差した。

「もちろんっ! え、それがどうし……ッ!?」




 ペロリ




「〜ッ!?」
「ほらあ、やっぱ甘いじゃんっ! もお、お姉ちゃんの嘘つきっ!」

 そう、クリームか、そうでないか、なんて。
 舐めればすぐわかる!
 どおーだ、まいったかっ!

「あれ? お姉ちゃん?」
「な、な、な、なめ、舐められ……っ」

 おあっ!? 顔真っ赤!?

「っちょ、どしたの!?」「ぅう〜っ……」


 わ、わけがわからない……。
 で、でもまあ、とりあえず。

「ほらっ、れっきとした証拠だよ! 謝って!」

 だってさ、お姉ちゃんに謝ってもらえたことなんて、数えるほどしかないんだよっ!

「それはいやだっ!」
「はあっ!?」

 まだ言うかっ!? この馬鹿姉はっ!

「なんで!?」
「だって、桜が悪いんだもん……」
「は? 私がなにしたのっ!?」
「私に黙って他の人と帰った!」
「はああっ!? だってそれは、お姉ちゃん、生徒会の仕事で遅くなるから先に帰っていいって……」

 そもそも一緒に帰る約束なんてしてないし。
 ただ習慣で毎日一緒に帰ってるだけだし!

「言ったけど、他の人と帰っていいなんて言ってないもん!
 それに、やっぱり一緒に帰ろうと思って、仕事サボって追い掛けたのにっ!


 ほ、ホントにわけがわからない……。
 なんで涙目なんだ?

「〜っぜーったい謝ってなんてあげないんだからっ!」
「あっ! 待て……」



 バァンッ!



 ああもうっ! なんでいっつも都合が悪くなるとトイレに逃げ込むんだ!?




 やっぱり、お姉ちゃんなんてだいっきらいっ!


+終+

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