+小説+

□二人の手〜春瀬〜
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 始まることも許されなくて、
 終わらせることも出来ないこの想いに、
 私は今日も、気付かないふりをする。



「雪那ー!」
 こけそうになりながら駆け寄っていく。
 校門にはいつも通り私を待つ片割れの姿があった。
 私に気付くと、嬉しそうに優しく笑って小さく手を振ってくれる。
「はあ、はあっ……ごめん待たせたっ!」
 急いで謝ると、母親によく似た高く甘い声で穏やかに返してくれた。
「いいのよ、春瀬は生徒会の仕事があったんでしょう?」
「ううん、それでもごめん! 帰りにアイス奢るね!」
「ふふ、ありがとう」


 ああ、この笑顔。


「……うん、じゃあ帰ろう、って、雪那!?」

 いきなり繋がれた手に驚いて声をあげる。
「いいじゃない、たまには昔みたいに手をつないでも」


 何でもないことのように返してくる雪那。
 振りほどけない私。
 私をひきつけて離さない、雪那の温もり。


「いや、でももう高校生なんだしさ……」


 何とか繰り出す言葉だけの抵抗。


「……だけど、私達は」


 そして貴女の落とす、


「双子の姉妹なんだから」


 無敵の核弾頭。


「……うん、そうだね」


 わかってる。
 わかってるよ。
 二卵性で顔はそんなに似てないし、特技も性格もまるで違うけど。
 繋がれた手だけは、昔から二人そっくりなんだよね。
 だから、貴女は間違いなく、私の双子のお姉ちゃん。


「帰ろう」


 胸を焦がし続ける痛みと一緒に、
 私は自分とよく似た手を握り締めた。


 始まることも許されなくて、
 終わらせることも出来ないこの想いに、
 私は今日も、気付かないふりをする。


+終+

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