そのときだった。 「イブの娘よ」 深く、朗々としたあの声が、頭の中をふっとよぎる。 「開きなさい、その本を」 あのライオンの声が。 「あなたがこの本を再び開くことを、私は、ナルニアの民は、待ち望んでいたのだから」 『アスラン…?』 その言葉を口にしたとたん、不思議なことが起こった。 部屋の電気も、窓から差し込む金色の朝日も、すべての光が一瞬ちらっとしたかと思うと、すぐに消えてしまった。 まるで、ロウソクの炎が吹き消されるみたいに。 よくわからないまま、何も見えない暗闇に呆然と突っ立っていた。 この世界で一人ぼっちになったかのような、そんな恐怖に私は凍りついた。 「何も恐れる必要はない」 『え…』 「君も、おいで」 威厳に満ちているが、それでいてとても優しい声だった。 本の表紙を開くと、本は淡い光を放ち始めた。春の陽だまりのような光だ。 『夢…?』 白い光は徐々に強くなり、目も開けていられないほどになり、その光は、私を包み込んでいった。 体がふわりと浮くような不思議な感覚があり、私は息をのんだ。 はっとするほど新鮮な空気を思い切り吸い込むと、身を切るような冷たい風が頬を撫で、髪がなびいた。 きんきんと寒気がするような気がして、ぞっとするほど冷たいものが首筋に触れた。 おそるおそる目を開けると…そこは白銀の別世界だった―――。 |