英雄王と新たな女王

□第1章 2016年・日本
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『はぁ』
私は机に向かって、ため息をついた。
シャーペンを持つ手が、ひどく痛むので見ると、中指が真っ赤になっていて、ペンだこが出来ていた。


国語の鬼が大量に宿題を出したのだ。いつまでたってもなかなか終わらない。
しかも、漢字をひたすら書くだけ、という単純な作業を永遠に続ける、という面白くも 何ともない、拷問のような宿題だ。


中学二年生になった私は、小学生のときとは違って、毎日が勉強に終われる日々だ。


『はぁ』
私は机に無造作に積み上げられたドリルを見上げて、もう一度ため息をついた。


ここ一週間ほど熱を出して勉強できず、こんなにも宿題が溜まってしまったのだ。



私の心はどんどんしぼんでいく。 もう一度、ため息をつく。
幸せがふぅ、と逃げていく。



『あれ?…ない』
学校の図書室で借りた参考書がなくなっている。…どこに置いたっけ?

私は本棚を探した。

手前には教科書やらノートやらが大量に詰め込んである。
そこにはなかったので、私はそれを退けて床に置き、奥のほうを探した。

が、借りた本はなかなか見つからない。



しかし、他の、昔なくしたと思っていた本は次々と見つかった。
幼いころ読んだ絵本に小説、伝記に図鑑…。

そして、あの本も。

『ナルニア』
思わず、呟いてしまった。


吸い寄せられるように全七巻のうちの一冊を手に取り、表紙を眺める。

大きく「ナルニア国物語」と書かれていて、その下に「ライオンと魔女」と紫色の文字で書かれている。


深々と降り積もる暗い森の絵。何だか、不気味に思える。
そして、その中を黒いこうもり傘を差して歩く、二人の後ろ姿。
一人はヤギ足のフォーンで、もう一人は小さな女の子だ。


『ナルニア、かぁ』
一度見ると、もうその表紙から目が離せなくなった。



この四年間、私はわざとこの本から遠ざかっていた。 タンスの中に入り込んだ、あの懐かしい思い出がよみがえってくる。

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