ナルニア。 それは私にとって、特別な言葉。 架空の国だとは分かっていても、もしかしたら。 もしかしたら、本当にあるのかもしれない。 「何やってるのかなー?」 ビクッ。 『お兄ちゃん…』 振り返ると、中学生の兄がニヤニヤしながら私を見ていた。 「またタンス入ってんの?あのナルニアとか いう本のこと、信じてるのかよ。どう?森はあった?フォーンはいたか?マジで信じてるんだしなー、お前」 『…もういいから。ほっといてよ』 むっとして言うと、兄はさらに調子に乗った。 「あーそうかそうか、ごめんなー。お前がお子ちゃまだってこと、忘れてたよ。まだ小4だしな。子供の夢壊すとか、一番やっちゃいけないからな」 『……』 そして兄は私の机から一冊の本を取り、タイトルを読み上げた。 「ナルニア国物語、ライオンと魔女」 『返してよ!』 私は涙目になって取り上げ、本棚の奥にしまいこんだ。 『別にナルニアなんか信じてないし…っ!』 それ以来、私はナルニアを読み返すのも、そのことを考えるのも、やめてしまった。 だから今も、その本は本棚でずっと眠り続けているのだ―――。 |