陽の間


□追憶の海底〜約束の地へ〜
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仮面の下では(よど)みで出来上がった(かせ)
汚れた俺の身体
わずかに残された希薄な感傷は
狂気へと飲み込まれる

もう二度と浮上はしないであろう
君の心は まるで
海底まで沈んだ亡骸(なきがら)のよう


海中に潜って 君を求めて沈下する…
やがて空気を欲して
息苦しくなり それでも抗うよう
下へ…下へと沈んで行く


こんな苦しみでは
君の痛みには近づけない
こんな苦しみでは
君の痛みには敵わない
こんな苦しみなど
痛みにすら入らない


限界ギリギリまで耐えてみたら
海底が見えてきた
視界が(かす)んで 息が途絶える寸前
君の姿を捉えたーーー

のだけれど……

そこで俺の意識は完全に途絶えた


辿り着くのは困難だと
解ってはいたのだが……
微かな希望だけが俺を突き動かしていた

期待を(いだ)いた瞬間
混沌の種は振り撒かれていて
希望の芽も もぎ取られている
そして 最後には
無惨な絶望をこうむるのだ


叶わぬ願いだろうと
決して届かぬ想いでも
澄み切った歌声だけは
変わらずにいてくれ
護りたかったから 君だけは


あの時の言葉が今になって
ようやく知ることができた
遅すぎたけれど……


最期に 君の言葉を知れて
よかった

最期に 君の心に触れられて
よかった

最期に………
本当の 君の素顔が見られて
本当の 君の笑顔が見られて
良かったーーー………。





『広い世界なんて要らないから
私たちの―――
約束の地へ行こう。』
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