陰の間


□救いの声
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僕が「おかしい」と思うものは
それはいつしか壊れて逝く

これは実話だ


お風呂の湯船で波を立て
疲れを癒していた時
それに気づいた


僕が湯船から上がって
激しくお湯が波打った時
どこからか小さな音が聞こえてきた


カチ…カチ…カチ…と
そんな時計の秒針を刻むかのような
一定のリズム
通常ならば聞き逃す音だ


どこから鳴っているのか
音の在処(ありか)を突き止めようとした
なんでそんな事をしたのか
僕にもわからない
わからないけど
なぜか気になって しかたがなかった


どうやら
湯船の右の外側から聞こえてくるようだ
その部分に耳を宛て
心を研ぎ澄まして聞いてみたら
正解だったらしい


最初はその音は
気のせいだと思っていた

でもやっぱり
いつも同じように
お湯が激しく波打った時
それはいつも鳴っていた


だから
僕はある実験をしてみた


湯船には入らず
(おけ)で激しくお湯を左右に揺さぶってみた

やっぱり不可解な音は鳴っていて
そして僕は無理やり激しく揺れる湯を
(おけ)で止めてみた

そしたら音もなぜか止んだ


どうやらその音は
お湯が激しく揺れ動くと共に
鳴っている音だった


つまり
どこかが「おかしい」ということだ


でも 僕には
どうすることもできなかったから
放って置くことにした
そもそも その音が鳴っていたからといって
僕には関係のないものだ


そしたら
何年か後のある日
その事件は起こった

なんと 台所の床から
水が漏れだしてきたのだ

つまりはこういうことだ
台所の床下には 配水管が通っており
それはお風呂にも繋がっているもの

そこで僕は ようやく合致した
「あの音」が原因で水が漏れだしたのだと


「あの音」は随分前から鳴っていた


でも 僕はそれすらも
どうでもいいと思っていた
あまり驚いてなかった
僕という人間は 関心がないんだよ


だけど
「あの音」だけは違ったんだ

「あの音」だけは
聞き逃すことが できなかった

そう あの音は
「壊れた音」だったんだ


そして僕は
そこで気づいてしまった
気づきたくはなかったよ

だって僕が壊れた人間だったからこそ
あの音に気づけたんだ


つまり…
「助けて…」と
音がそう叫んでいたんだ

そしてこうも
言われているようにも思えた

「君も壊れているんだね…」と
音がそう 伝えていた


だけどね
僕は 気づくことができて
良かったって思うよ


ごめんね…
もっと早くに知らせて あげられていたら

涙を流すこともなかったよね

ごめんね…
もっと早くに修理(なお)せていたなら

泣かせずにすんだよね…


これからは
「君たちの救いの声」に
もっと耳を傾けて行こう



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