陽の間


□金星列車
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日没後、西の空に姿を見せる(よい)明星(みょうじょう)
地球にも似た兄弟の惑星。
その星は常に 太陽の近くを回っており、
地球のすぐ内側にも存在している
夕方に姿を見せ 一際 明るく輝く金星。


夜の(とばり)が下りる前に届けたい。
出発地点は金星(ビーナス)、届け先は地球(アース)
(あま)駆ける天馬のよう
想いを乗せた列車が発車。


地球に泣いてる人がいる、想いを届けなくちゃ。
そのためのビーナス(金星)

天は、想いが(つど)う場所、
空は、想いを運ぶ場所。
過ぎ去った時間や思い出が(あせ)ぬようにと…
この列車は そんな天空を走ります。


回収して届けるのです。


忘れさられた絵本。
その中には夢がいっぱい詰まっていたはずです。
良よい事も、悪いことも
たくさん教えてくれた絵本。


きれいなものほど 汚れてしまうのならば…
いらない、いらないのに…。
でも、この沸き起こる罪悪感は なに?
悔やんでしまうのは なぜ?


始まりは透き通るほど純真なのに、
どうして気づいた時ほど(けが)れてしまうのか
僕達のこの心…。

色落ちぬよう大切に保管していた憧れの品。
(いた)んでしまうのならば
いらない、いらないのに…。
でも、この沸き起こる違和感は なに?
惜しんでしまうのは なぜ?


置き去りにされた写真も白黒で色がない。
それでも写真の中だけは鮮やか。
大切なものだったのに、
どうして手放すほど苦しめられてしまうのか。
僕達のこの心…。


(あま)駆ける列車は、金星(ビーナス)が沈む前に
地球(アース)まで運ぶのです。


「この私物はあなた、
あなたが作った忘れ物。
届けに参りました」と…。


そんな人とは呼べない、それでも人と呼べる
想いが詰まった列車は、忘れた頃に…。
忘れは日々の、忘れ物を、
(よい)明星(みょうじょう)と共に
告げ知らせるのです。


また思い出した。
そういえばあの星は…
明けの明星(みょうじょう)とも呼ばれていた。

明け方、見上げれば、
忘れてたあの頃の星が西の空で僕達を見守っていた。



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