原作沿い長編

□夢見鳥に魅せられて
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慶応4年3月。

甲州勝沼の戦い勃発。
新選組改め甲陽鎮撫隊は、新政府軍との圧倒的人数及び武装差により鳥羽伏見の戦いに続き敗走していた。

元の新選組隊士に加え急遽寄せ集めた兵の統率は難しく甲陽鎮撫隊は散り散りになり、八王子方面に向かう新選組三番隊組長斎藤一の率いる一部隊も、背後の新政府軍の追撃を警戒しつつ甲州街道の急勾配の山道を重い足取りで進んでいた。

まともに動ける者は一人としていないような負け戦。
渡来した新兵器に刀では成す術もなく、無惨に散っていった命に思いを馳せるだけしか出来ず。
行く先に希望など一切見つけられずにいた。

怪我人を抱えながらの移動は思う以上に進まず、歩いては休み、歩いては休みを繰り返す。
それ程遅滞した移動でも付いてこれなくなる者ばかりで行軍の士気は下がる一方だった。

応急手当ての出来る者も無ければ道具もない。怪我をしたままの状態で歩くには、甲州街道は甘くなかった。

背後から呻き声が重なる度に足を止め休みを取るが、僅かな気休めにもなっていない事は斎藤には百も承知だったが、打開策も見つけられずにいた。

「医者が近くにいるらしい。」

どこからかそんな声があがった。
それはこの地獄の様な状況に僅かに差した希望。

「詳しく話せ。」

声の主が分からないが、背後から聞こえた小さな会話に向け斎藤は声をかけていた。
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